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無実の罪

著者不明

 (なおウィックランド氏の著作商用権は既に切れている)


 一九一九年七月、一時地方の大問題となった謀殺事件が米国のトバンガ・カニョンで突発したことがありました。下手人はハアリ・ニューとって、情婦のフリイダ・レッセルを殺したというのです。兎に角ピストルが発射され、彼女がそのめに落命したことは確実でした。当時彼女が妊娠中であったから、ニューは多分後累を怖れて殺意を生じたのであろうと推定されました。で、審理の結果、彼は十年の懲役に処せられたのです。

 この判決は判官の理性常識から下されたものとしては恐らく無理のない所でしょうが、若しこれに心霊上の判断を加味することにすると飛んだ見当外れの判決でした。フリイダの霊魂はウィックランド夫人(ロサンゼルス市の有名な霊媒)のからだに憑依し、さも絶望したように両手を揉みながら、裁判官の頑迷不霊なことをしきりに訴えました。――

『おおハアリハアリ! 決してお前の罪じゃない! あの人達はんてわけの判らないことを言ってるのでしょう! ハアリは何んにもしやしない。みんなわたしのしたことです。おどかすつもりでわたしがピストルを持ち出すと、ハアリは本気にしてピストルをわたしの手から引ったくろうとあせる。掴み合っている中に不意に発火したのです。ハアリに罪はありません。わたしだって自殺する気などはありャしません。ホンの一時の気まぐれの痴話喧嘩からったことです……。』

 霊媒の良人ウィックランド博士は、『三十年間死者とまじりて』と題する一書を著わし、心霊家として米国で知名の学者ですが、んな場合には、かならず憑依霊に向って要領を得た質問をはなつことを忘れません。彼は霊魂に向って訊きました。――

『もしもしあなたは自分の肉体を失ったことを御承知ですか?』

『さァ。』とレッセルの霊魂が答えました。『わたしは肉体があるか無いか知りませんが、誰の所へ行って事情を話してきかせようとしてもさッぱり通じないのにはがッかりしています。何故なぜわたしの声が先方に聞えないのでしょうね? 可哀相にハアリはわたしのめに飛んだ濡衣ぬれぎぬを着せられてひどい目に逢わされています……。ただの一人ひとりもわたしの言うことを聞こうとしないのだから呆れますワ。そんなことでうして本当の事情が判るものですか……。』

 幽冥の世界からの通信によりてこの種の悲劇……無実の罪の真相がすっぱ抜かれる場合は決してすくなくはないと思いますが、しかし法廷が霊媒を有力なる一の証人又は参考人として認めるのははたして何時でありましょう? (『オッカルト、レヴュウ』六月号)


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第二巻第八号

発行: 1924(大正14)年8月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年6月14日

※ 公開:新かな版     2007年8月13日


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