心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第二巻

巻頭言

心霊研究

 心霊研究にはすくなくも三つの大なる危険が伴う。

 第一の危険は霊媒を買いかぶる危険である。霊と肉とがしっくり統一せる尋常人には離れ業はとてもできない。それができるのは霊と肉とがある程度別々に働らく変態の人間にかぎる。変態の人間中一ばん下等なのは恐らく発狂者であろう。とび離れてはいるがあまりにも調和がなく、統一がなく、内容価値にとぼしすぎる。一番すぐれているのはけだし天才又は霊媒等と呼ばるる人々である。調子がいいと飛んでもない高所、深所、妙所に達して、しかも綽々しゃくしゃくとして余裕がある。そんなところを見せつけられると大ていのものはびっくりして無条件でその崇拝をはじめる。その人の弊所、短所、弱点までも真似まねたがる。こいつがはなはだあぶない。『その長を採り、その短を棄てる』――これは古い格言だが、天才又は霊媒に対する時には特にこの用意があってほしい。真の崇拝の的となるものは優れた畸形児よりもむしろ円満具足の大常人格者であらねばならぬ。

 第二の危険は余りに日常生活とかけ離れた別世界の空気にひたり切る結果ドーかすると自分が踏みしめている大地の存在を忘れ、何事もあなた任せになり、人間としての生命たる努力、精進、奮闘、克己等の美徳を閑却して気のぬけたビールのようになることである。印度人などがけだしその好標本である。地上には地上の生活があり、死後には死後の生活がある。われわれが死後の世界を探るはいかに現世の生活をよりよく築き上ぐべきかを講究するめで、断じて生きながら片足を墓場に突きこむことではない。

 第三の危険は慢心の奴隷となり勝ちなことである。普通他人の知らないことを少しでも知っていると得意の鼻をうごめかすのが人間の弱点である。新帰朝者などにもこの弊害がはなはだ多い。ましてや物質的には触れられない霊界の知識を有っているとなると誰れしも急に偉がり、先覚がり、普通人を眼下に瞰下かんかして喋々ちょうちょうと説法をはじめたくなる。生かじりの霊術者流のキザな態度ときては全く以て鼻持がならない。

 何をやっても弊害は伴うものだが、新興の学問たる心霊研究のめに働くものはお互いに此等これらの諸点についてせいぜい注意を怠らぬことにつとめようではないか。


底本: 雑誌 「心霊と人生」 第二巻第八号

発行: 1924(大正14)年8月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年6月14日

※ 公開:新かな版     2007年8月9日


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