心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊と人生・第二巻

心霊問答(巻頭言)

□ 心霊研究所

乙。 それはそうとあなた方が一方において雑誌などを刊行して対世間的の仕事をり、他方において心霊現象の調査だの心霊資料の蒐集だのという純学究的の仕事をるのはちっと無理ではありませんか。何ちらにも手がまわり兼ねて不統一、不徹底の弊害に陥りましょう。何とか一つ良い方法を講じられたらいかがです?

甲。 イヤ全く御説のとおりで、その点は私どもも実はうから気がついて居ります。心霊事実それ自身を研究する仕事と右の研究を基礎として社会人生に対する仕事とはまるきり畑がちがいます。前者は研究室内の仕事、後者は研究室外の仕事です。所が今の所ではその肝腎の研究室さえも無い位で……。

乙。 それだから駄目なのです。早く完全な心霊研究所の設立にでも着手されたらいいでしょう。英国や米国には何十年以前からほぼ理想に近い立派な機関が設置されて居るではありませんか。日本では何を愚図ぐず愚図ぐずしているのです。

甲。 イヤ仕事というものはなかなかそう容易たやすくは運びません。第一金がない……。

乙。 そんな事があるものですか。天理教や金光教を御覧なさい。何百万、何千万の大金が瞬く間に集まって一般国民の生活とは全然没交渉な堂々たる建築物が訳なく出来上るではありませんか? そのほか慈善病院だとか、公会堂だとか、図書館だとか云ったようなものには相当多額の寄附者が現われるでしょう。つまり日本国に金子がないのではない。心霊問題に理会りかいつものがないから心霊研究所が出来ないのです。世界の一等国だなどと云って居るくせにこれほど重大な問題に対してたった一人の理会りかい者も現われないというのは呆れ返るじゃありませんか? 時々私は日本人がイヤになる……。

甲。 そりャけません、あなたのお言葉は乱暴過ぎます。

乙。 何所が乱暴過ぎます? あなたは心霊研究所の必要を認めないのですか?

甲。 イヤ心霊研究所の必要を認める事にかけては、不肖ながら敢て人後に落ちないつもりです。研究者も霊媒も共に人間ですから相当の設備のある所で相当の取扱いを受け、何等生活上の不安なしに専心仕事にかかれるのでなければとても充分の能力を発揮することはきません。只今のような、まるで有るか無しかの待遇を受けて居るような塩梅では一時の間は辛抱し得るにしても到底永続はきはしません。奢侈しゃし贅沢ぜいたくは全然禁物であると同様に冷視虐待もまた禁物であります――が、日本の社会が心霊問題に就きて非常に警戒の眼を光らしているのにも充分無理からぬ理由はあります。その主なる理由は従来これぞという、刮目すべき心霊事実が絶無であった点です。西洋式の正確味もなければ東洋式の深遠味もない、そのくせイヤに勿体もったい振ってペテンゴマカシばかりやりたがる霊術家の輩出……。これでは全くうっかり話に乗れません明治から大正にかけての数十年間にわたり、心霊科学研究会で最近関係をつけた数人以外に安心して江湖こうこに推薦すべき価値あるものが一人でもありますか? ただの一人も無いでしょう。結局これは時節問題です。日本に心霊研究所が今日まで設けらるるに至らなかったのもソーいう時節であったからでしょう。誰を怨みるようもありません。が、いよいよ今日のように有力なる心霊事実が続出しかけた以上、そしてそれが社会人生の活問題に対して直接間接に甚大の影響を及ぼすことが明瞭になった以上、それを見殺しにするほどそんな無理会むりかいな、そんな冷酷な、そんな下らない人類であると私はわが同胞を見くびりたくありません。私なども元は随分せっかちな、そしてややもすればシニカルなかんがえった男ですが、最近十年間いろいろの事で揉まれて来たお蔭でつくづくと時節の前に人力のはなはだ微細なことを痛感するようになりました。われわれは無論むろん常に自分の与えられたる仕事に最善の努力を払わねばなりません。しかしめいは常にこれを天に待つの覚悟がなければならない。若しもあなたの胸の底に心霊問題に対する世間の人達の無情を怨むの念が毛ほどでもきざしているならそれは早くむしり取っていただきたい。動くべき時節が熟すれば木石までも動きます。時節が熟せぬ時は塵一つだに動きません、心霊研究所の設置問題などもただ時がこれを解決してくれます。

乙。 イヤ大へんよく判りました。安心してその時期の熟するのを待ちましょう。――が、いよいよ心霊研究所が設置されるという暁にはたしてその仕事に耐ゆる立派な研究者が日本の学界から現われるでしょうか? 今のような状態ではいささか心細いように感じますが……。

甲。 その事も心配無用かと思います。心霊の働きは決して人の想像するように断片的、孤立的なものではないと私は信じます。一切万有の奥に遍満する活きた力――それが心霊の働きです。故に今ここに一つの心霊現象が発生すれば、いち早くその現象の正邪善悪を観破する人だの、又綿密周到にその現象を研究する人だの、それぞれの役者がかならず同時に出現します。決して心配するがものはありません。現に今でも私は隠れたる心霊学の篤実な学者を二三人知って居ります……。

乙。 成る程そうですか――イヤそうあるべき筈です。では私も安心してあなたの所謂いわゆる時節の熟するのを待ちましょう。

甲。 それに限ります……それもモーあまり遠い未来ではないと思います。


心霊と人生

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心霊研究と実用問題


底本: 雑誌 「心霊と人生第二巻第七号」 

発行: 1924(大正14)年7月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年7月9日

※ 公開:新かな版     2007年7月22日


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