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評壇

▼半日労働の宗教学校▲

 日本全体を通じて無数の宗教団体がある。そして、それぞれ宗教運動や、社会事業を行って居る。が、その実際を見るとこれはと思うものは幾莫いくばくもない。最近、千葉県下に現われた宗教学校は、多少その趣きを異にし、且つその計劃けいかくも新しい。左にその報道記事を紹介すると、――

 ここに東京市外は杉並町に天沼教会と基督キリスト教徒の集まりがあります。この教会では千葉県君津都神納村に新しき学校計画をたて、目下その準備をやって居ります。木更津駅の手前の樽葉駅で下車して行く所です。十四町歩の山林(内四町歩は開墾地)をうて、校舎をたてる丈になって居るが、その資金にまだ不足するので、建築には着手せず、その準備として果樹を植付けて居ります。一体どんな教育をするのですかとこの教会へ行って尋ねますと、教会の方は語る『私共の方では三えっち教育をやるのです、三えっちうのはへっどはあとはんどの頭文字を取ったもので、これれを完全に発達せしめんとするのです手に至っては精神教育者のよく忘れる所ですが、天日の下に新鮮な空気を吸うて、筋肉労働を為し、自衛自活して行ける様に教えこむのです。れには当地では狭いから、広い土地を探し、右の処を選んだのです。が現在当校では生徒はすくなく僅に四十名ですが中学部五ヶ年、高等科二年の制度で男女共学で、女は十二人居ります、午前中は学課を教え、午後は例の労働ですが、ここでは敷地内の掃除、建築の手伝い、土工の手伝い、荷物の運搬、印刷等をやって居ります。千葉へはどうしても今年度中には行けませんが、来年度は百五十人位を収容したいと思うて居ます。あちらでは米麦を作って居たのでは、収益がすくないからモ少し利益のある果樹、養鶏、牧畜、西洋野菜、温室ものの花類を作って、これを大きな処へ納めるようにしたいと思います。そうして成るべく自給自活する様に学校を経営したいと研究中であります』と。院長は米国人ネルソンさんで、同教会すなわちセブンスデーアドベンチスト派の者に先入権を与えて入学せしめて居ます。授業料は一期五円、舎費食費は同廿二円です。一期とうは六週間の事であるそうです。

 これに依ってみると、その学校は三えっち主義、すなわへっどはあとはんどの調和的発達を期して居るのであるが、これこそ霊肉合致の教育、精神肉体の調和的訓練を目標としたもので、真の文化主義とわねばならぬ。『手に至っては精神教育者のよく忘れる所ですが、天日の下に新鮮な空気を吸うて、筋肉労働を為し、自衛自活して行けるように教えこむのです』と。当局者の理想は誠に当を得たもので、宗教研究と労働生活、精神の修養と肉体の養成、超俗的生活と経済生活、この両者の協調を計った所に、現代的新し味と社会的価値が十分に存する。

 由来、宗教研究者は肉体の養成を忘却する傾きがある。しかし、それは非常な心得違であり、大きな冒険である。宗教研究には頑強なる肉体が是非肝要である不健全なる肉体には什麼どうしても不健全の思想が宿る。健全なる思想は、健全なる肉体を通して現われる。これは、心霊学上からも立派に裏書せられる。しかるに、従来、宗教研究家乃至は宗教生活者は、十中の八九は肉体を虐待して来て居る。イヤ、そうする事に依って始めて、その目的が達せられると信じて来た。しかし、それは大いに誤った考方である。従来の宗教家及び在来の宗教が、余りにヒステリックであり、偏狭であり、無気力である根源の一つは、確かにここに存する。この点に一大革新の実行を期したのが、この学校の新面目である。

 更に、自衛自活とう経済生活に強い基調を置いた点もまた、大いに敬服すき卓見である。宗教家乃至はわれわれ心霊研究家はどうもすれば経済生活をネグレクトする。且又かつまた他方、現代資本主義全盛の下においては、経済生活上誠に不利な立場に置かれて居る。従って、パンの問題はパンの追求者以上に困難な問題となって居る。故に宗教家やわれわれ心霊研究家は、全然パンと離れるか、パンを与える人を求めるかとう憐れな状況に置かれる場合が多い。『坊主の貰いだこ』は、現代の経済組織と社会状態が産み出した必然の一種の畸形きけい物である。

 この憐れむき状態から、それらの人々を救い出す道は他にはない。汝自身自からパンを得よとうの他はない。それには、そうした人々に最もふさわしいパンへの道としては、この学校のもくろむ農事園芸に従事するとうことに依って、自衛自活の経済生活を営むことも確に一法である。この点に着目したこの学校当局者は、実に現代経済生活と社会状態とに深い理解のある人々と讃嘆する次第である。

 くの如く意義あり、新し味ある学校の発達と増加とは、われわれ心霊研究家として大いに期待する所であると共に、われわれ心霊研究家自身もまた、百尺竿頭更らに一歩を進めて、心霊研究と労働の生活に依ってこの学校の如く、斯学の研究と心身の養成及び経済生活の確立を計るがごとき心霊研究所の設立を、企劃きかくして行くことが緊急必須ではあるまいか?。


底本: 雑誌 「心霊界第二巻第六号」 

発行: 1924(大正14)年6月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年 月 日

※ 公開:新かな版     2007年7月5日


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