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評壇

▼事業と時代▲

――心霊研究の地位――

 時代というものは実に不思議なもの、恐ろしいもの、力強きものである。何時いつ何所どこからう始まるということなしに、間断なくそれが造られ、又間断なくそれが過ぎ去って行く。後から振り返って見ればその輪廓が明瞭だが、その渦中に居る時にはず大概の人にはさっぱり見当が取れない。ただオヤオヤオヤ! と呆れて居るうちに時代はさっさと進むべき方向に突き進んで行く。

「時代は神の意志の発現だ」――そう唱道する人もあるが、成程ソーとでもいうよりほか致方いたしかたがあるまい。時代の出所、淵源えんげん、方向等々遺憾なく指示するには人間の智脳ちのうは余りに微弱である。時代は常にある程度まで人間に取りてXである。

 んな難物である丈それ丈時代に対する人間の態度は常にまちまちである。詳しくえば千人千様というのが正当であろうが、大別すればざっと左の四種類に分れると思う。すなわち――

 一、時代を無視するもの、

 二、時代に先んずるもの、

 三、時代に平行するもの、

 四、時代に遅れるもの、

である。

 一番気楽なのは時代を無視することであるが、実際は多くの人にそれがきるものでない。いかに超然高蹈こうとうがっても、馬耳東風っても皆多少なりとも時代に引きずられるのが通則である。時代に対して最も没交渉でありそうな奥山の樵夫きこりでも出世間的の比丘や比丘尼でも多少は時代の色がつくものである。世にすねた老学究などが負け惜みでよく時代を無視するようなことを言うが、それは唯だ言葉の綾に過ぎない場合が多い。

 一番骨が折れるのは時代に先んずることである。来るべき機運を洞察し、止むに止まれぬたましいの欲求から万難を排して縁の下の力持的な仕事に精力をささげる……。口に言うのはんでもないが、実際行って見るとんな困難な仕事はめったにありはしない。幕末の蘭学者や勤王主義の唱道者などはたしかにこの組で、今から考えても同情の泪がそそがるる。現代ではさしづめこの難役を引き受ける貧乏役の親玉は心霊研究である。迷信家、好奇者ものずき、変態心理の所有者、気まぐれ、発狂者きちがい……。ほとんど人非人同様な罵声を浴びながら幽幻微妙な新天地の開拓に当り、一般世間の俗人からも、又一宗一派の信者からも、売らん哉式の霊術者流からもキューキュー苛められ。そのくせ金は一文も儲からないというのであるから物質的には全く割りのわるい仕事である。よくよく真理にあこがれ、千万人といえどもわれ行かんの意気と決心とがなければとても立派な心霊研究者にはなれる見込はない。何時いつか一度は心霊研究が時代と平行する時代もかならず到着するに相違ないが、まだまだ前途はなり遼遠りょうえんであるらしい。すくなくともそう決心をして一歩一歩に着実なる研究を進めるべきである

 時代に平行するものは所謂いわゆる当世の売れッ児で、現在の所では何が何と云っても活動写真、女学雑誌、講談文芸、ベースボール競技、文化式住宅などというところが花形であろう。時代の人気というものは不思議なもので、これに乗じて行くと労すくなくして功多く、喝釆かっさいと同時に収入が殖える。んなうまい話はないようだが、しかし決して油断はきない。そのうちプイと時代が変ると同時に今まで人気の中心であったものが一朝にして没落の憂目うきめを見ることにもなる。江東の国技館がその大きな図体をもてあますのを見てもほぼ察せらるるではないか。

 若しそれ時代に遅れるものに至りては正に酸鼻さんびの極であるが、見渡すところその連中ははなはだ多数である。忌憚きたんなく言うと十中の七八は時代に遅れたものすくなくとも時代に遅れかけて居るものとってよかりそうである。その中でイの一番は何とっても現在の政党政派で、それがたましいの藻抜けた残骸であることは衆目の一致する所であろう。それと覇を争うものとしては既成宗教を推さねばなるまい。科学的研究の基礎の上に立たないで、受売りや迷信の鼓吹で二十世紀の人心を司配しはいしようというのだから虫が善過ぎる。時代に先立ち過ぎた心霊科学と時代に遅れ過ぎた既成宗教との中間に立ちて苦悶せねばならぬ運命の下に置かるる現代の人心が浮薄化し危険化して行くのは誠にある程度まで止むを得ざる過渡の世相というものであろう


底本: 雑誌 「心霊界第二巻第六号」 

発行: 1924(大正14)年6月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年 月 日

※ 公開:新かな版     2007年7月4日


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