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憑霊現象と意識

海軍中将 浅野正恭

(一)

 ここに憑霊現象とは霊魂の存在、およびその憑依することから起る諸現象を指し、其中そのうちには所謂いわゆる潜在意識の発動なども含む。又意識なるものは心理学、精神科学方面で、なり論究されているが、霊魂が認めらるるに至ったあかつきでなければ、徹底的解釈に到着し得ざる点が多々存するよう思われる。世界に否でも応でも、彼の迷信臭を多量に含むと見えるところの霊魂学なるものを、是非とも承認せねばならぬ時機に、早晩到着することだろうと思う。そしてその時機なるものが、余り遠い未来ではなさそうな感がする。

 霊魂に関する研究は、我邦にては、未だ見るべき域に達しないが、欧米各国においては、の古くて新らしい学問が、なり長足の発達を遂げつつある。即ち一八八二年英国においてロッジ、クルックス、ワレエス、マイヤーズ等知名の学者が、心霊研究会を組織したのを初めとし、爾来じらい仏、独、米の諸国においても同様の機関が設置され両三年前倫敦ロンドンには心霊大学が設置せらるるにも至った次第である。しかして心霊研究の結果、到達し得たところのものは霊魂の存在、並にその事実を肯定するにあったと断じても、けだし過言ではない。その事実を立証するに足るべき参考資料は、今日に至っては既に尨大なものとなり、随所研鑽けんさんの歩を進め得るに至った。試みに西洋において研究せるおもなるものを列記すると、一八四八年北米に起れるフォックス家の幽霊裁判事件より、一九一五年及その翌年にかけて施行された、英国機械学者クローフォード博士の卓子浮揚実験に至るまで、幾多の権威ある記録が出来て居る。オスカー、ワイルドの自働書記、パイパー夫人の憑霊、ユーサピア女史の幽霊の物質化及物品引寄、クック嬢とケテーキング嬢との幽霊、レエモンドの霊界通信等で、数え来るとなお他にも沢山ある。是等これらのうち、我邦に紹介されたものもまたすくなくはないから、偏狭固陋ころう、他の言に耳を傾けんとせざるもの、あるい是等これらのことに無智なるがため、一概に排し去らんとするものを除き、具眼の識者は、つとに霊魂に眼ざめて居る筈である。

 霊魂問題は独り西洋ばかりでなく、我邦にも幾多の事実が存し、精確なる記録に存するものもすくなくないようであるが、明治維新以来、物質科学に眩惑げんわくされた結果、厳蕭げんしゅくなるべき筈の問題が、はなはだしく軽視されんとする傾向を馴致じゅんちし、又学者としても、これに傾到せんとするもの寥々りょうりょうたる有様であったのは、誠に遺憾に堪えぬ次第である。もっとこれを一の学問として研究し、新生面を開拓せんとするには、眼前によこたわるところの物質を捉えて云々せんとするのとは、大いにそのおもむきを異にし、惨憺さんたんたる苦心の伴うべきは予想し得らるるのみならず、在来の学説なるものを、あるいその根柢から覆がえす結果とならざることもまた必とし得ないから、当分学界との奮闘を覚悟せざるべからざる難関もよこたわるのである。さればというて、の問題を外にしては、思想問題も人生の意義も、根本的に解決し得べしとも思われない理由が存する以上、世に忠ならんとするものの、一口も等間に附し去るべき底のものにあらざることを、痛切に感ずる次第である。

 霊魂の存在、並にその憑依の事実は、これを立証せんとするのに、材料豊富に至った今日そう難事とするには足らないのを覚ゆるが、私はこここれを試みようとするものではない。そして直ちにその事実を認め、その及ぼす結果の一端を考察せんとするものである。但し霊魂の存在及憑依に対しては、推理上からも帰納し得らるる筈であるから、私は次にの推論を進めて、所謂いわゆる学説なるものを樹立したいと思う。


心霊界・第二巻・第四号 

「憑霊現象と意識」(一)  (二)  (三)  (四)  (五)  (六) 


底本: 雑誌 「心霊界第二巻第四号」 

発行: 1924(大正14)年4月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年4月11日

※ 公開:新かな版     2007年4月19日


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