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評壇

▲伝心の実験▼

 最近英国の『心霊研究会』でヘンリー、シヂウィック夫人が伝心――精神感応に関する実験報告を行ったので、世間の注目を惹き、それが英国の諸新聞を賑わし、同時に日本のあちこちの新聞にもその報道が伝えられた。本年二月十日の大阪毎日新聞夕刊の評壇子などもこれを紹介し、同時にその論評を試みて居る。実業の中心地の大新聞が心霊現象を論ずるということは日本では心霊現象以上の珍現象であると考えられるから紀念きねんとしてこれを左に転載して置くことにする。――

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 言葉に表わし難い感じを、二人の者が暗黙の間に諒解し合うのを以心伝心となづけたり、またこれに似たものを読心術などといって、我国にも古くから行われていたようであるが、これと異って、もっとまとまった思想を、五感を超越した方法で他人に伝えることが、最近英国で問題になっている。

 実験者は学者として有名なマレー教授である。教授は閉切った一室に籠り、これと奥行三十六フィートの大室を隔てた他の一室において、る者をしてその考えている事を他人に話させ話し終えた時、教授はその室に行ってその者の手を握ってその話したことを当てるというのである。バルフォア卿及びその妹シヂウィック夫人の立合った最近の実験では、十回の中五回まで当てたが、なおシヂウィック夫人が英国心理研究会で報告した所によると千九百十六年以来二百三十六回の実験中、的中八十五、半的中五十という成績である。

 英国一流の哲学者であるバルフォア卿はこれに対して『この実験の信用すべきものたるは疑いもない所で、これによって、相離れた二個の自己意識ある生物が全く未知未解の方法で思想を交換し得ることがわかった。だがこれは、現在の如何いかなる学理も、未だ説明が出来ぬものである』と断じた。

 今英国で流行っ児になっている科学者ホールデーン教授は、これに対して『この思想交換はやはり、普通の音波によるもので、マレー教授の聴覚はこの際著しく鋭敏になって、平生は聞きとれぬ音響をも聞き得る状態となるのである。それは、その思想を話さねば実験の出来ぬこと、失敗した時を見るに、聴取の不完全から起ったと見るべき誤謬ごびょうが多いのとでわかるといっている。

 所がバルフオア卿は『吾々われわれが五感の一をもって外物を知覚する場合は、必ずその感官を使用していることを自識するものであるから、若しこれが聴覚をもってするならばマレー教授はこれを自識せねばならぬ筈だが、実際は自識しない。』と駁した。また他の人は、ある小説の一説が朗読せられた時に、マレー教授は一度もその小説を読んだことがないにかかわらず、それを当てたばかりでなく、更にその朗読せられぬ部分までも話したことを指摘している。

 これらの論戦は、かつて日本で千里眼の問題の起った時、あるいはこれを一種の手品と見、あるいはこれを在来の科学で説明の出来ぬ神秘な境地と論じ、しなくも学界に一波瀾はらんを起したことを想起させる。これがはたして聴覚や音波で説明出来るものか、出来ぬとすればバルフォア卿の言の如く、在来の人の智識では諒解し得ない一個の新しい問題として、人智を更に一歩進める動機となるものであろう。

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 心霊研究者からいうと思想の伝達は随分古くから研究されて居る問題で、これを実証する実例の如きはぼう然として山を為すと云ってもよい。今回これに関与した役者が、バルフォーア卿だの、シヂウィック夫人だの、マレー教授だのという連中なので一般世間の視聴を惹くことになったのは誠に結構であるが、学問上には従来の沢山の実例に一の新実例を加え得たというにとどまる

 それにしても吾人はかかる際に必らず物質科学者が紋切型の文句をつけるのを見て微笑を禁じ難いものがある。彼等は通例難解なる新熟語製造の大家であって、何か不可解の事象が起るとただちこれに命名することを忘れない。ホールデーン君なども異常に鋭敏なる聴覚を hiperalethesia だと称して居る。そうするのは物質科学者の勝手であるが、それがこの現象のよって起る源由の説明には少しもならない。心霊学者は何物の力がこの異常に鋭敏なる聴覚を起すのかそれを尋討したいのである。外面からある一の現象を観察してこれに命名して安心が出来るのが科学者だとするのは恐らく科学者の天職を侮辱したことであろう。われわれはそんな軽薄な風潮の一時も早く一掃され、心霊科学者と物質科学者とが各々その分野を厳守し、相提携しての文化の樹立に努むる時代の一日も早く日本国にも到来することを鶴首って待つものである。


底本: 雑誌 「心霊界第二巻第四号」 

発行: 1924(大正14)年4月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年4月11日

※ 公開:新かな版     2007年4月16日


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