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霊覚と常識との契合点

主筆 浅野和三郎


 人間の理性常識で容易に説明のきない諸種の変態現象――例えば催眠術に伴って起る諸現象、精神病者の奇怪な言動、幽霊屋敷の出来事、死又は災厄を予告する正夢、巫女稲荷下げのお告等に逢着した学者達は散々脳漿を絞った結果いろいろの説を立てた。曰く潜在意識説、曰く暗示説、曰く幻覚錯覚説。曰く詐術説……。そして自家の主張を裏書きするに好都合な沢山の実例を蒐集整理するに多大の労力を惜まなかった。

 無論人間の肉体は一の有意識的機関であるから、ある程度迄此等これらの説のいずれかがあてはまることはうたがいママれない。変態現象中のるものは幻覚錯覚説で立派に説明がつき、るものは潜在意識説や、暗示説で見事に解釈が出来、又屡々しばしば巧妙な詐術であることがつきとめられる場合もある。われわれはそれ等の学問上の努力に対して常に敬意を払うことを忘れてはならぬ。どれれ丈沢山の迷信的分子がそのお蔭で駆除されたか知れない。

 すべての変態現象非常現象が上記の諸説ですっかり形附けられたと思惟するとそれは大なる誤謬である。心霊研究者は最近数十年にわた惨憺さんたんたる苦心の結果、前記の諸説では説明のつかぬ実例を沢山蒐集しゅうしゅう整理した。その中の一つは

  卓子浮揚現象

である。これを行った霊媒はイタリアのユーサピア女史、英のゴライアー嬢等で、前者はロンブロゾー教授其他そのほかが実験し、後者はクローフォード博士が実験した。そして霊媒が手を触るることなしに卓子が空中三四フィートの高さに浮揚することを科学的に確めた。これはあきらかに幻覚錯覚でもなければ、暗示でもなければ、潜在意識の発動でもなければ又詐術でもない。しからばそれは何であるかという問題に逢着して苦心した結果最後に憑霊説が生れたのである。憑霊説というのは、個性を有する霊界の存在物が霊媒の肉体を機関として心霊現象を起さしむるのであるとする学術的仮説なのである

 卓子浮揚現象以外にも、幽霊の物質化現象だの、自働書記式霊界通信現象だの、透視現象だの、物品引寄現象だのというものが沢山存任して、直接間接に極めて有力に憑霊説を裏書きする。今日憑霊説を無視して心霊現象を論ぜんとするが如きは時代遅れも甚だしいことになった

 ただし憑霊説もまだすっかり完成しては居ない。超現象界において個性を有して居る存在物――霊魂が存在するということは疑われないが、その超現象界、所謂いわゆる霊界の性質なり、又霊魂なりの性質に至ってはすっかり判明して居るとは言われない。東西の神懸りの説明にある程度の一致点は発見されるが、同時に不一致の個所もすくなくない。そして現在の所では客観的方法を以て全部を実験実証することが不可能である。ここに心霊現象の危険性不安性が伴うのである

 かの霊示霊告のごときも研究的もしくは教訓的範囲内を脱せざる間はさしたる弊害はない。誤謬があったところがその損害は多寡が知れて居る。ただ未来の予言などになった時にうっかりすると飛んだ騒ぎになる。当るも八卦、当らぬも八卦――そんな事を言って済ましては居られない。心霊問題に関係するものはこの点に対して平常多大の注意警戒を要する。

 孔子は怪力乱神を語らずと述べて居る。それは常識家の常道としてある程度結構な事に相違ない。しかながらこれでは不徹底である。私は怪力乱神を究めてそれに迷わずでなければけないと思う。臭いものに蓋式のやり方は結局迷信の鼓吹になる。支那の儒学の裏に道教だの、仙道だの、その他いろいろの信仰が多大の勢力を占めて居るのでも判ると思う。

 心霊研究が今後何所どこまで発達して霊界並に霊魂の内容を把握解明し得るかはもとより不明であるが、現在は現在としてわれわれは最善の方法を講じて行かねばならない。霊魂は常に霊媒を機関として人間界と交渉を起すが、その霊媒は元来有意識の活物であるから、われわれは何より霊媒の人格に注意を払わねばならぬ。霊示霊告に不純分子の混入するのは多く霊媒の人格の不純から来ると見て差支さしつかえないようである。そう考える時につくづく心霊研究の至難の事業であることが痛感せらるる次第である。

 人間の理性常識のみでは駄目、さればと言って霊示霊覚も当てにならずとあっては悩みと迷いとが現代人の頭脳から一掃されぬ筈である。嗚呼ああいずれの日か両者の間に契合点が発見さるるであろう。時より外にこれを解決するものはない。


底本: 雑誌 「心霊界第一巻第十一号」

著者: 浅野和三郎

発行: 1923(大正13)年12月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

 

※ 入力:いさお      2007年1月19日

※ 公開:新かな版     2007年2月16日


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