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主張と告白

その三

――信仰問題心霊問題を中心として――

浅野 和三郎

出口直子の自働書記

(一)

 大本教の部内はもとより、一般世間でも出口直子の自働書記の作物を筆先ととなえて居ることは何誰どなたも御承知の通りでありますが、これに対する観念は人によりて多大の相違があります。試みにこれを分類すると大体左の数種になろうかと存じます。

(甲) 筆先の全部を純無垢の尊き神の託宣なりとしてその一点一かくをも尊重するもの(所謂いわゆる大本信者中の純なるものがこれに属します)。

(乙) その中の自己に好都合な点はこれを信じ、しからざる点はこれを無視するもの(所謂いわゆる大本信者の大多数はこれに属し、霊界物語派だの、八木派だのと称し暗闘をつづけつつあります)。

(丙) 単なる無学なる一老婆の囈語たわごと見做みなすもの(心霊作用を否認する唯物主義の人々はこれに属しますが、五七年前に比すればこのしゅの人達は余程減少したかと存じます)。

(丁) その全部を単なる潜在観念の表現と見做みなすもの(潜在意識説で一切の催眠現象を説明せんと試みた過渡時代の心理説を鵜呑にしたる学徒にこれが多いようです)。

 私などは一時は四種類中の甲の部類に属する一人であったかと存じます。そして一生懸命喧嘩腰で口に筆に『お筆先』の価値を唱道したものでありますが、一旦いったん熱渦ねっかの裡から脱出して冷静なる批判力を恢復かいふくして見ますと、自分の言説には非常の過不及があり大々的修正を必要とすることを痛感するに至ったのであります。同時に私は他の三種類の人達の見解態度に対しても賛同の意を表し兼ぬるのであります。私は忌憚きたんなくここに私見を開陳しますが、甲の種類に属するものの最大の欠点は神懸りにつきて余りに無智識である事だと思います。神懸り現象は憑依霊霊媒の肉体と二つ揃わねば出来ませぬ。憑依霊は出入自在な幽体でありますから人間として容易にその真偽を判別し難く、ややともすればマヤカシ霊のめに一ぱい食わされます。又霊媒は生きて居りますから、る程度までそのひとの我慾なり、潜在意識なりが混同し易い。そこでいかなる霊示霊告でも、何等の割引無しに全部これを信ずるということは既往幾千年の実蹟から観ても、又純正理論の上から考えても断じて正当でない。先ず千古に卓出する神啓中七八割までの正確味純粋性を有するものはそう沢山は無いということに衆説が一致して居るようであります私もそれに左胆致します。ですから大本信者の一部のものが、出口直子の筆先に対し絶対信仰を有することに対しては情において敬意を表しますが、学問研究の立場からは認容し兼ぬる点であります。

 ぎに乙の種類に属するものの最大欠点は余りに情実味利害の打算とが多きに過ぎる事かと存じます。博徒又は侠客等の親分子分の関係にはこれもあるいは結構でありましょうが、宗教団体にそんなものは禁物であります。大本教は善かれ悪しかれ出口直子の創立にかかるものなのですから、その教が気に入ったられに入り、気に入らなければこれと離るるのが正当であります。何の必要ありて大本教という羊頭(?)をかかげて八木派だの霊界物語派だのという狗肉(?)るに及びましょう。八木派にも霊界物語派にもそれぞれ多量のドグマが存在し、そしてそれ等は筆先と全く相背馳あいそうちし、若くは全く無関係であります。大方世間とは没交渉なる特殊団体の内輪の問題でありますから私は今これに言及することを避けますが、厳格に言えば此種の人達は当然大本教の信者という名称を撤廃すべきでありましょう

 丙の種類に属する論者にありましては、これは自働書記の産物たる筆先の批判からはしばらく手を引いて傍観の態度を執りて戴くより外に致方いたしかたがありますまい、それ等の人達は独り出口直子の筆先きを否認するばかりでなく古今東西の一切の心霊事実を否認するのでありますから言わば心霊論者とは全然別世界に住む人達であります。それが社会で多数を制する場合には相当心霊論者を圧倒することは可能でありますが、心霊論者は全然これを無視し着々研究の歩を進めて行かねばなりません。つらくともこれは心霊論者の神聖なる義務であります。

 丁の種類の論者に対しては私は相当の敬意を表するにやぶさかならざるものであります。一部の心理学者が潜在意識の存在に着眼したのは確かに一の卓見でありまして、ある程度までの真実味を有しますがただこれ丈で一切の心霊現象を説明し去らんとするのが誤謬なのであります。欧米の多数の学者も既にすでこの点に気がついて緻密精到なる研究を遂げつつありますから、常に遅れ馳せなる日本の学界でもそろそろそれに追随するものと観て大過ないでしょう。兎に角出口直子の筆先を全部潜在観念の表現と見做みなすのは正しき見解でないと私は主張するものであります。


大本教の神懸現象

目  次

出口直子の自働書記 (2)


底本: 雑誌 「心霊界第一巻第十号」 

発行: 1923(大正13)年11月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、 黒丸傍点表記を、下線付き強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年1月17日

※ 公開:新かな版     2007年2月11日


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