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日本固有の心霊現象 (四)

――御嶽行者品川守道氏の霊術実験――

浅野 和三郎

 すると翌十月十九日の晩、約束の通りはたして品川氏に村上入道の神懸りがあって、古鏡引出しの時日は十一月二日との事でありましたから、私はその時日の来るのを鶴首して待ち、松村理学博士、杉田医学博士などとも打合せをしつつあったのでしたが、その月の下旬に及びて品川氏の岳父に当る老人が病気危篤に陥り、品川氏はその祈祷やら看護やらで上京し難いというので十一月二日の期日は取止めとなり、改めて十二月五日午後三時より四時に至る時刻に執行さるるという神託がさがりました。

 場所の選定は私に一任されて居りますので、東京帝国大学の理科、医科等の教授達と内交渉をすすめて見ましたが、例の大震火災のめに多大の損害を受けた揚句で適当の場所が帝大の構内に見当りません。そこで少々実験には手狭でありましたが、本郷西片町なる杉田医学博士の自宅を借用することに決し、十二月五日午後二時過ぎには関係一同が同邸に参集しました。すなわち行者品川守道氏をはじめ、立合人としては杉田直樹氏、佐野静雄氏、浅野正恭氏、吉村丈男氏、大橋正真氏、斎藤十藏氏、藤井大星氏、そのほか医科大学の助手等を併せて総計二十人許でした。

 場所は杉田氏応接室の階上、最近落成の八畳の日本座敷で北方は床の間、他の三方はガラス障子のはなはだ明るいへやでした。床には木彫の観音の像が置いてある……品川氏は仮にその床の間を神前に見立て、これに向って座を占め、祝詞のりとを唱え始めたのは午後三時でした。

 大祓の祝詞のりとを何回か繰りかえして居る中に、音調が次第次第に急促きゅうそくとなり、かくて三時二十四分となると俄然がぜんとして神懸状態になりて、ぎッしり奥一ぱいにつめて息をころして凝視して居る立合人の方に、空中で百八十度の方向転換をりました。その状態は前にも記した通りですからここにはくだぐだしく再説しません。

 そばに坐って祝詞のりとを上げて居た大橋氏が法式通り神名を伺いますと、

大和建命やまとたけるのみことである、』

との答――つづいて私に向い、

『浅野! 約束によりこの神前において神鏡を授けるにより、左様心得よ。右の神鏡は金剛山の一つの唐櫃からびつの中に埋蔵されてある一品で、製作の年代はさしてるいものではない、まず千年近いものぢゃ――注意のめにこのほうわざわざ出てまいった。二十分間休憩する……。』

 私は委細承知の旨を答えましたが、何故にこの際大和建命が御出現になったかはすこぶる不審でたまらなかった。しかし本日の実験の眼目は神鏡引出しにあるのですから、わざとその事に就きては追究詮鑿せんさくの歩をすすめずに置くことにしました。

 一旦常態に復した品川氏は数分間休憩の後、再び祝詞のりとの奏上をはじめ、かくて三時四十八分になると例の神懸り状態に入りました。

いずれの神様にござりまするか?』

『村上である!』

 問答が終るか終らぬに品川氏の肉体はすッくとあがった。右手には白扇を持ち、左手は帯に当てがって居る。

『窓を少しけい!』

列店者の一人ひとり二人ふたりが急いでガラス戸を明けると、今度は、

『皆立て! 立て! よく手元を見て居れ!』

 そう言って、今しも半分許明け放った東南の窓に向い、白扇を持てる右手を斜めに高く前方にさし上げ、

『エーツ!』

という力強い気合きあい

 その瞬間に、何物とも形は見えぬが、『かちッ!』と扇子せんすに打ち当る音丈が、すぐ三尺ばかりを隔てて立って見つめて居る私の耳朶じだに響きました。

『オヤッ。』

と思った時には、品川氏のからだは上下左右に急劇きゅうげきに動いて、しきりに空中の何物かを捕えんとする様子でしたが、扇子を持って居るので右手の自由がきかず、その時まで腰にして居た左手を急に延べんとして及ばず、

『チャリーン!』

という音を立てて何物かが床の間の上に落ち、お両三度落ちた反動でその物のころがる音がつづきました。

『エーツ! エーツ!』

 品川氏は白扇を持った右手にて件の物品を指さしながら気合いを両三度かけました。

 見ると件の物品は直径三寸余の一面の古鏡で全体に緑錆ろくしょうがういて居ました。(本誌創刊号口絵参照)。


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底本: 雑誌 「心霊界第一巻第十号」

著者: 浅野和三郎

発行: 1923(大正13)年11月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2007年1月17日

※ 公開:新かな版     2007年2月14日


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