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自然と人生

――その種別並に心得――

主筆 浅野和三郎


 昨年の関東の大震火災は自然力の発動中のすこぶる強大なるものでことにそれが人事に及ぼせる影響の大なる点においてなかなか軽視することがきなかった。人間としては成るべくこれを予知し、そしてきる限りその惨害から免れたかったに決って居ります。かの地震計や気象台の設置、又消防機関の配備などはあきらかにこれを物語って居ります。所が実際においてそれ等の人為的、もしくは器械的の装置はほとんど何等の効果を挙げることがきず、これめに御承知の通り罹災者達は周章しゅうしょう狼狽ろうばい不覚ふかく千万の醜態を演じました。

 人為的器械的方法に対してはここに心霊的直覚的予知方法があります。現在心霊研究の立場から云えば去年の大震火災位の予知は或る程度まで可能であらねばならぬ筈になって居ります。鼠などが大火災の起る五日も七日も前からこれを感識して居を移すというような俗説の正否は別問題として少くとも人間には修行次第で大変災を未然に察知し得る能力が相当賦与されて居ることは理論上からも実験上からも明白なことでいやしも真面目に心霊問題を取扱った人ならば首肯せねばならぬ筈であります。心霊作用のいかなるものかを全然知らない人達が考えるように、これは決して奇術でも、魔術でも、迷信でも詐術でも、但しはマグレ当りでもなく、立派に最新科学の実証し得る事柄であります。ただし未然に察知し得たからとてこれを一般に公開することの可否は全然別問題に属します。人の死期が判って居るからと申して矢鱈に発表してはならぬ場合が多いと同様に、かかる事柄は余程慎重なる考慮を費さねばなりませぬ。うッかりすると弊害の方が利益よりも遥かに大きい。用心深い当局者が予言めきたる事に対して取締を厳重にすることは衷心から同情致されます。

 今日では最早一ヶ年以上も経過した事柄でありますから申上げても差支さしつかえないと存じますが、昨年の大震火災を霊的に正しく予知し得た霊覚者は、私自身の接触せる範囲内では日本国にただ二三人しかありません。其中そのうちの一人は昨年の一月と震災当日の午前十時頃と二回にこれを予告し、他の一人はその前々日に予告し、他の一人はたしか昨年の春に暗示しました。われわれ研究者としては事前にこれを信ずる限りでありませぬから勿論むろんこれを発表せずむしろ興味ある実験材料として極秘に附して置きました。私どもの関係せざる霊覚者中にも昨年の大震火災を予知し得たものが恐らく少しはあったであろうと存じます。兎に角心霊科学研究会が関係した霊媒中に二人でも三人でも正確な予知したものの存在したことは学問研究の立場から言って誠に意義重大なることと存じます

 これにつけても私どもは自然と人生との従来の見方を一変すべきではなかろうかと痛感して居ります。物質文明の発達は人をして一時自然征服の夢を抱かしめましたが、これは余りに本末を顛倒し過ぎて居ると考えます。大自然には大自然の意志があり、不可抗の強大な力でそれをプログラム通りに遂行しつつあるようです。大自然界の一微分子たる人間がこれを征服するなどとは余りに片腹痛い仕業でそんな不心得な考を起すよりはむしろ大自然の意志と協調することを考えるのが至当でありましょう人倫道徳の基本はたしかにその点に存するものと確信致されます

 既に大自然の意志を尊重するとなれば、成るべく的確に大自然の意志を承知せねばなりませぬ。心霊研究の最大目標が其所にあることは申すまでもありません従来兎角隔離し勝ちであった自然と人生との間に完全なる橋梁を架する――これができれば誠に以てしめたものです

 水害や干害を防ぐにポンプのような器械の力に依るのはもちろん結構であります。ある程度迄はそれでも防げます。しかしながら本年の如き大旱魃となると平生うっかりして居た世人も初めて眼がさめて治水の要諦は植林にありと叫ぶようになりました。これは明かに自然征服よりも自然との協調の方が優れて居ることを自覚した難有ありがたい言葉であります思想問題精神問題等に於ても同様であります思想が悪化したから法律で取締る信仰が薄らいだから布教伝道を盛に行る。――あえて無益ではないでしょうがそれは畢竟ひっきょう人為の小刀細工でありますドーしてもこの際心霊の微妙なる作用をもって大自然の秘奥を探り信仰の大森林を人心の奥に樹植すべきであると痛感致します

 昨年の震火災といい、又今年の旱魃といい、又遠く近く耳朶じだを打つ大洪水の通報といい、自然と人生との関係にははなはもって懸念さるる点があります。これに対していたずら狼狽ろうばいすることもはなはだ悪いが、これを無視して空疎浅薄くうそせんぱくなる征服論を唱えることも結局は滅亡を招きます。人間は飽くまでも敬虔なる心を以て自然と協調し正しき心霊の指示に従って避くべきは避け尽すべきは尽しもって意義ある存在を遂ぐべきではないでしょうか


底本: 雑誌 「心霊界第一巻第九号」 

発行: 1923(大正13)年10月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2006年8月30日

※ 公開:新かな版     2006年10月9日


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