心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊界・第一巻

常人格者と非常人格者

浅野 和三郎

((上)) 心霊学上から見たる人類の二大別

 われわれは多くのものを相対的関係に於ける甲乙二種類に分類したがる傾向を有する。陰陽、男女、霊肉、水火、天地、左右、上下……数え立てるとほとんど際限がありません。あたらしい所では物理学者の陰陽電子説などが矢張りそれで、これなどはどの位世界の学界に大影響を及ぼしたか知れません。元来陰陽説は東洋ことに支那及び日本の古い専売物ですが、ドーやらこれが二十世紀の世界において最後の優勝権を占めたように見受けられます。

 それとこれとは別問題ですが、人類を分類するにも、一定の標準によりてこれを二大別するのがはなはだ便利で、いずれの方面の人々も、ほとんど常套的にこの方法を採用しつつあるようです。例えば地域で人類を二大別すると東洋人と西洋人となり、皮膚の色で二大別すると有色人種と無色人種となり、財産の有無で二大別すると有産者と無産者となり、信仰で二大別すると有神論者と無神論者となるの類であります。そして両者の関係は常に対抗的、峙立じりつ的であり、その間には常に勢力の消長が免れないようであります。ドーもうして進むのが、人類を始め、万有一切の必然の運命なのかも知れません。

 ところでわれわれ心霊研究者にきましても矢張り自己の研究の立場から全人類を二大別して見たくなります 。それは決して人真似ひとまねからでも好奇心ものずきからでもなく、実地の仕事を遂行する上において間断なくその必要を感ずるからであります。用語がいささか非科学的でうっかりすると誤解のおそれがないでもありませぬが、私は一方を『常人格』の所有者、又他方を『非常人格』の所有者と呼びたいと考えるのであります。

 私の所謂いわゆる常人格の所有者とは普通の理性、常識、学問、技芸等をそなえて世俗に伍し、二に二を加えて四となし、四に四を加えて八となす式の、平凡な、地道ぢみちな仕事を遂行する人達――すくなくともそうすべき天分をそなえた人達を指すので、碁で云えば所謂いわゆる定石を打つ連中であります。勿論むろん私の常人格という用語の中には、各自の能力の大小高下等に対する褒貶ほうへんの意味を少しも寓して居りません。この種の人達の中にも百代まれに見る如き傑物も居り、又千万人にすぐれたる器量人も居るでしょう。要するに私はただ性質の上からそう命名したので、力量の如何いかんを問うのではないのです。

 数からいうと世界の人類のほとんど全部は皆この常人格の所有者で、又是非そうあらねばならぬと思いますが、ただ心霊研究の立場から考察する時に、常人格の所有者と多くの肝要な諸点において正反対の性質を有する非常人格の所有者が発見さるるのであります。そして又心霊問題を実地に研究するには是非この種の人が必要で、これをヌキにしてはほとんど天文学者の手から望遠鏡を奪い、細菌学者の手から顕微鏡を奪い取ったにも等しい結果になるのであります。人間がこれに気がついたのは決して近代の事ではなく、ほとんど人類発生の当初から世界各国の人々が着目して居るのですが、ただ時代により、郷土によりてその待遇なり、名称なりがいろいろに相違して居るのは勿論むろんであります。神がかり、神の使、神の子、仏陀、活如来、天才、真人、異人、仙人、魔法つかい、修験者、霊覚者、霊媒、巫、神おろし、卜者……。捜したらもッと沢山ありましょう。が、兎に角ひッくるめて一と口に言えばことごとく非常人格の所有者で、碁でいうなら、いずれも定石はずれのした奇手を打つ連中であります。

 無論人数から申せばこのこの非常人格の所有者は至って少ない。従って何事もアメリカ式に頭数で行こうとする実利実用向きの人達からは無視され易い傾向をって居るかも知れませぬが、学術研究の立場からは、数量の大小は問題でありません。数量から云えばほとんど云うに足りないラジウムの発見が天下をひッくりかえしたとっても差支さしつかえない程の甚大な影響を惹起じゃっきしたのを見ても明瞭でありましょう。 たッたひとりの非常人格者の出現――それで全世界の文化がんな大変動を受け全世界の人類がんな大改造を閲することにならぬとも限らないのであります 。試みに人類の歴史からたッた数人の非常人格の所有者、例えば釈迦、ヤソ、マホメッド、老子、ゲーテ、ダンテ、稗田阿禮等を除いたと仮定して御覧なさい。いかに人生は物足りない、面白味のない、下らないものに下落するでしょう。くれぐれもわれわれは数の多少なぞで批判の公平を失ってはなるまいかと存じます。


((中)) 非常人格者の根本的資格

((下)) 分業の必要


底本: 雑誌 「心霊界第一巻第八号」 

発行: 1923(大正13)年9月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、 黒丸傍点表記を、下線付き強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2006年7月28日

※ 公開:新かな版     2006年11月27日


心霊図書館: 連絡先