心霊図書館雑誌総合案内> 「心霊界・第一巻

心霊研究者の内容

――その種別並に心得――

主筆 浅野和三郎


 私どもが昨年春心霊科学研究会を創立して会員を募り、機関雑誌を刊行したり、実験会を催したりすることになって見ますと、時運の力は恐ろしいもので全国各方面の熱心なる方々がその挙を賛して直接間接に声援を与え、又いろいろの注文なり、忠言なり、相談なりを申送ってくださるものが連日絶ゆることがありません。それにつけても私どもの責任は重つ大を加える次第で、できる限り皆様の御希望に添わんことを期し、万が一にも過誤失策に陥ることのなきように甚深の注意を払わねばならぬことを痛感する次第であります。

 さて此等これら心霊問題の熱心家に就きまして、実地にその内容を考察しますと、大体これを四種類に大別し得るかと思われます。

 第一は霊媒又は霊術家霊覚者たることを希望さるる方々でありますすなわち何等か目覚ましい霊能を修得発揮して、あッと世人を驚かせ、又実際の業務の上にこれを利用して一挙に大成功を収めんと欲せらるる方々であります。此等これらの人達の心理状態は恐らくすこぶる無邪気なもので、われわれが小供こどもの時分に源義経だの、加藤清正だのを憧憬渇仰どうけいかつぎょうしたのと大差はないでしょう。見渡すところ世間には案外この種の稚気満々たる可愛らしい青年時には大人が多いものですから 悧巧な人達は霊術伝授の看板を揚げ少なからぬ料金で講習者を募集します随分巧みに人間の弱点を狙ったものと考えられますが 私どもとしてはこれは絶対に推薦し得ませぬ霊媒は皆天授であり先天的であり無理に修得は不可能に属します 又霊界との交渉の衝に当る霊媒の仕事は心身共に容易ならぬ練磨を要し短日月の間に碌な修行もせず 一攫千金式の成功を収めることは決して望まれはせぬのであります 。で、私は従来原則としてこのしゅの志望者諸君に対しては常に再思三考を求めて止まないのであります。

 第二は他人の疾病治療を希望さるる方々であります 。疾病がう沢山で、それが捗々はかばかしく医療で治らなく、又治っても多大の費用がかかる現状なので、世の救済に志ある方々が心霊療法に着眼さるるは誠に無理のない話と存じます。又実際心霊療法の効果は中々顕著で、とても薬物療法や器械的手術で真似まねのできない晴れのわざを演ずる実例も決してすくなくはありません。しかながら私の観る所によれば心霊療法は術者の術よりはむし ろ術者の徳を眼目とします 。換言すれば心身共に健全であり、清浄である人が、自力又は他力(神仏の加護)又時には自力と他力との併用に依り、患者の心身のくもりを払い、あかを除くのが目的なのであります。従って、心霊療法ということも、容易なようで、実になかなか容易ではありません。最初真剣味の強い間は、至誠通神の理で相当効果を収める場合もありますが、惰気だきが出たり、慢心が出たり、又利慾心が手伝ったりすることになるとさっぱり利き目がないことになります。普通の医者にも藪医者があるように、心霊療法家にもデモ療法家のあるを免れません。ですから天下の万衆のめに一身を捧献するという余程の覚悟の方々でないとこれも勧めるわけにはまいりません。一体心霊研究の最高の理想は疾病を治すことではなくして疾病に罹らなくすること縦令たとえかかってもこれに打勝てるようにすることだと思います

 四種類中の第三は是非一度霊的体験を得たいと希望さるる方々でありますが私どもは此種の人達に対しては満腔の敬意を払いあらゆる便宜を図ってあげたいと存じて居ります。極度に睿智えいちの優れた人ならば、影を見て形を察し、一をきいて万を悟り、強いて体験を求むる必要はないかも知れませぬが、死後の生活、霊魂の存在、又は大霊の働きなどという微妙なる心霊上の問題になりますと、凡人には到底何等なんらの体験なしに理会りかいきません。イヤ理会りかいきても確信の域に進み得ません。それではマサカの場合に何の役にも立ない所の趙括の兵法に過ぎませぬ。

 さて体験を得るめには単に他にたよる丈ではけませぬ。ドーしても自身から進んで、る程度の犠牲を払い、る程度の修行を必要とします。しからばその犠牲、その修行は何か――これはその人の境遇その人の性格、又そのひとの体格によりて適宜に工夫すべきで、到底とうてい一概には言われぬかと存じます。

 四種類中の第四はあくまで批評的態度を以て心霊問題を研究せんとする人達でありますが私共はこの種の人々の一人でも多からんことを希望して止みませぬ。文芸の偉大なる発達には純真なる文芸批評家を必要とするが如く、心霊科学の偉大なる進歩には誠実なる心霊批評家を必要とします。魚市に居るものが魚臭を知らざるが如く、兎角専門にその道に従事する者は熱心の余りに、ひとえに奥へ奥へと突き進みて他をかえりみず、何時いつしか飛んでもなき脱線をもやり兼ねませぬ。現にかく申す私自身のごときも立派にその一人でありました。かかる際に必要なのは理会りかいあり同情あり 又沈着を失わざる真の批評的研究者の出現であります 。全然無理会むりかい極まる門外漢が見当外れの圧迫や取締に熱狂するようなことでは、いたずらに文化史上に見苦しき汚点を印し、又いたずらに世界の心霊学界から落伍するの愚を演ずる事になります。体験を経て専心斯学しがくに志す人――これは無論歓迎すべきでありますが、それは余りに多きを必要としません。批判的態度で心霊問題を研究する人々に至りましては千人よりは万人万人よりは十万人が望ましい………。 イヤ六千万同胞の全部がことごとくそれになられるのが何より結構と存じます


底本: 雑誌 「心霊界第一巻第八号」 

発行: 1923(大正13)年9月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2006年7月28日

※ 公開:新かな版     2006年9月8日


心霊図書館: 連絡先