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日本の心霊現象と霊能者

浅野 和三郎

(上)

 最近十年来のわたくしの乏しき経験から考察するに、本邦で起る所の心霊現象と欧米諸国の学者達によりて報告されるところの心霊現象との間には、類似の点も無論多々ありますが、その発展法なり、又種類、性質なりにおいて、とても同様に取扱うことのきない相違懸隔けんかくが少なからず存在するやに見受けらるるのであります。その詳細なる比較研究はこれを他日に譲らねばなりませぬが、就中顕著なる相違点は西洋の心霊現象の多くが実験室内の産物であるに反し日本の心霊現象の多くが実験室以外の産物であることでありますこの相違は心霊研究者に取りて極めて重要なる意義を有します前者にありては人間の合理的条件が主となりて超人的心霊作用が従となり後者にありては心霊作用が主となりて研究者の方が従となる。主従本末の位置が根本的にひっくりかえるのですから、実際問題としてまことに容易ならぬ事柄とわねばなりませぬ。

 研究者としての立場から申せば実験室内に於ける精到緻密なる実験が理想的であることは申すまでもありませぬ。十九世紀から二十世紀にかけての理化学、天地文学、動植物学、そのほかほとんど一切の自然科学は皆この方法で破天荒の進歩発達を遂げ得たので、科学的研究と実験室とは常に難るべからざる関係に置かれて居ります。西洋の学者先覚者が心霊研究を開始するに際して、直ちに実験室内に於ける実験ということに着眼したのは、きわめて自然の径路でもあり、又はなはだ妥当なる手段でもあり、これに対し一点非難を加うべき余地がありません。そして彼等はこの方法で、幽霊写真、透視、卓子浮揚、自働書記、その他の諸現象につきて綿密周到なる実験を行い、霊界並に幽霊の存在の事実につきては最早一点の疑議を挿むの余地なきところまで漕ぎつけ、在来の浅薄俗悪なる十九世紀式旧唯物思想を根柢からくつがえすことに成功しました。これは他方において異常なる物的科学の発達と相俟あいまちて、確かに人文史上の革命的大発見たる名誉を担ふべきであります。

 かく西洋の学者は実験室内の心霊的実験において大成功を遂げましたが、しかしそれがきましたのはたまたま学者の注文に適当な霊媒並に実験に適当なる心霊現象が西洋に現出したからであります実験者と実験材料とが甘い具合に双方揃ったからであります。恐らく西洋の心霊研究は今後においてもこの調子で更に一層の進歩発達を遂げるでありましょう。又是非ぜひそうあらせたいと存じます。

 しかしながらわが日本で、西洋式の実験室的心霊研究法をそッくりそのまま襲用しゅうようしたとこで、はたしてれ丈の実蹟を挙げ得るかはすこぶる疑問であると存じます。福来博士の如きもこの方針で進もうとした心霊研究者の一人でありましたが、予想以上の幾多の難関に逢着して、あたら中道で挫折するの止むなきに立ち至った。故平井金三氏の如きもその轍を踏みました。他にもこの種の篤学者で同様の行詰りに出逢ったものがすくなくないように見受けられます。かく申す私自身とても、若しきるものなら、是非ぜひそれを実行して見たいと思い、両三年来微力の限りを尽して見たが、なかなか思うように運ばないことを発見しました。ドーも日本には実験室向きの霊媒なり、心霊現象などが、絶無というではないが、しかしはなはとぼしい。相手なし、材料なしの仕事は、此方こちらでいかに気張って見ても、独相撲ひとりずもうを取るようなもので、はなはだ力の入ればえがせぬのであります。最近のこと京都に同一目的をもって一の心霊研究会が組織され、今村博士、下村博士、吉田学士等が中心となりて、鋭意実験材料の蒐集しゅうしゅうに腐心し、わたくしもしばしばその相談に預かり、又その会合にも臨んで見ましたが、ドーも今の所では適当な霊媒が少ないので困って居る実状であります。せっかく日本に成立した有力なる研究会であるから、是非ぜひ充分の成績を挙げて世界の心霊学界に貢献させたい念慮ねんりょは山々でありますが、遺憾いかんながら目下の所ではまだ充分の自信ができる所までは行って居ないと言わざるを得ませぬ。

 それなら日本若くは一般に東洋に於ける心霊研究事業はその前途に光明を認め得ないかというに私は断じてそうではないと確信して居るのであります東洋には実験室向きの霊媒若くは現象がないだけで東洋一流の特色を有するものが別に豊富に存在する。それが西洋のように簡単な実験の材料とするに適せぬのは不便といえば不便、困るといえば困りますが、其所そこには無視し難きもっとも千万な理由がありて存する。心霊現象の価値はそれが実験室の実験に適するや否やという単なる理由で決する訳には行かない、心霊の働きは甚深微妙、霊媒というものはこれをモルモットと同視することはきぬ。うまい具合に、在来あり触れた実験の鋳型に適応してくれれば誠に願ったり協ったりこの上なし結構ですが、そうでないとて、無下にこれを排斥除外するのは、ふるいにかからぬ大粒の砂金をムザムザ塵芥の中に棄却するのと同じ意味にならぬとも限らぬ。真の心霊研究者は常に随時随所に、こちらの態度なり手段方法なりを千変万化して行くだけの用意と雅量とを発揮して行くべきではあるまいかと私は痛感して居るのであります。


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底本: 雑誌 「心霊界第一巻第七号」 

発行: 1923(大正13)年8月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、章毎にページを分け、箇条書きに改行を加え、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、強調表記に、置き換えました。

※ 入力:いさお      2006年7月28日

※ 公開:新かな版     2006年8月30日


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