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心霊問題に就きて

今村力三郎


 話は十四五年以前のことです。三河国の法華寺に小松周海とう僧侶がありまして、霊媒によって死者の霊を招き種々の事実を語らしめ、れがすこぶる確実であるので、段々その地方で評判が高くなり、信者も殖えて来た。

 警察では荒唐無稽の祈祷をもって愚民を蠱惑こわくするものとして、裁判所へ告発し、名古屋区裁判所は警察犯処罰令を適用して小松周海を拘留に処する言渡しをした。

 小松がこの判決に不服を唱え名古屋地方裁判所に控訴したとき、私がその弁護を依頼された。

 此頃このころ平井金三君を中心に村井知至、松村介石、藤田霊斎そのほか心象問題に趣味を有する諸君が心象会とう一の研究会を組織し私もその会員であったから、小松周海の弁護を受任すると、早速平井先生の宅へ相談に出掛けた。

 弁護士とう職業は爆弾事件を引受ければ火薬の研究が必要になる、精神病者の事件を引受ければ精神病学の一班いっぱん位は見ねばならぬ、自殺他殺の問題が起れば法医学の智識が必要となる、しかるに前以まえもっことごと夫等それらの智識を備えることは不可能であるから泥棒を見て縄の嫌いはあるが、止むを得ず、事件を引受けてから大急ぎで出来るだけの準備をするのである。

 この小松周海の事件は全然心霊問題であって霊媒は依てある霊を招くことが事実として裁判上認容にんようせらるべきや否やを決定すべき按件であるから、私は平井先生のおしえを受けるのが最適当であり、又当時心霊問題に関して恐らく平井先生以上に研究されたお方は無かったと思う。

 平井先生は私のもとめに応じて平生の蘊蓄うんちくを傾倒せられ、多数の参考書籍を貸与せられ私はこの材料をもって法廷に立った。当時私が如何いかなる弁論をしたか今日において詳細の記憶は無いが、平井先生直伝の心霊論でもあり、これを証明すべき横文字の書籍まで提出したので、裁判官も余程興味を以って傾聴された様子であった。参考の書籍は読んで見たいから貸して呉れとの裁判官の御希望で一時お預けして帰った。しかして裁判の結果は無罪になった。

 裁判が済んで小松周海が東京へ来たが適当の霊媒が無くて期待をむなしくしたが、名古屋方面には今日でも彼の信者が残って居るそうである。小松周海は其後そのご越後に転住したが近来は音信が無い。

 私はかかる偶然の事から心霊問題に接し、其後そのご私の眼を掛けた後進高橋宮二君の令閨れいけい貞子夫人が透視念写の能力を有するに至ったのでますます心霊問題に興味を有つようになりましたしかしながら私は浅野君の人類が死亡して後にまで個性を保ち亡魂となって宇宙間に存在するとまでの確信はありませぬ。りとてこれを否定する智識もありませぬが要するに今日の物質科学では到底説明することの出来ぬ霊媒なる作用のあることを認識してその研究を進めることを奨励したいと考えて居るのでありますしかるにある科学者は科学と心霊問題とを両立せざるものの如くすこぶる狭量に考えて、むしろ心霊問題の研究を妨害し破壊せんとするが如き態度の見ゆるは、遺憾であります。


底本: 雑誌 「心霊界第一巻第一号」 

発行: 1923(大正13)年2月1日 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に準拠して、底本の旧字表記をあらためました。

※ 入力:いさお      2007年3月15日

※ 公開:新かな版     2007年3月15日


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