赤光線下の物品浮揚と目覚ましき物品引寄

浅野和三郎

 

昭和五年一月中に私の司会で龜井氏の実験が前後五回行われた。表示すると左の通りである。

第一回、一月十六日、丸ビル内、丸の内倶楽部。

第二回、どう二十日、東京心霊科学協会事務所第三回、どう二十五日、名古屋八重小学校理化学実験室

第四回、どう二十七日大阪心斎橋服部時計店講堂

第五回、どう二十八日、どう上。

 以上五回の成績はすこぶる不平均で、かりにその割合を点数で示すと大体ぎの如きものであった。即ち第一回十五点、第二回八十点、第三回七十五点、第四回五十五点、第五回九十点

 何故にかかる不平均を生ずるかという事は心霊実験家に取りて重要な研究題目であるが、目下の所ではまだ充分にその理由が判らない。しかし恐らくぎに掲げるような事が源因げんいんを為すであろうと推測せられる。即ち……

(一) 霊媒自身の健康状態並に気分。

(二) 列席者の体質並に気分。

(三) 実験室の構造、装備。其他そのほか

(四) 蓄音機の音譜、室の温度、通風その他環境を造るもの。

  前掲の諸項中もっとも実験成績を左右するものは第一項と第二項とである事は数十回の実験の結果ほとんど疑うべき余地がない。即ち心霊実験の成績は主として霊媒と列席者との連帯責任であり、無理解者が考えるように、責任の全部を常に霊媒のみに帰することは不正当だということになる。

 私は左に掲げた前後五回の実験に就きて一々報告するいとまがない。代表的に一番成績の良好であったその第五回目の実験の概況をここに記そう。

 霊媒の緊縛、幕の張り方其他そのほかは従前の通り、ただ浮揚用の第一卓子の外に別に実験物を載せるめの第二卓子を備えつけたのが従前の装置とちがった点である。後者には赤光灯並に瀬戸ひきの洗面器一個を載せてある。これから現象発生の順序で列記すれば、

 第一が鈴喇叭ハーモニカ等楽器類の活動

であった。これは実験の初期に必らずおこるもので、何等なんら特記するに足りないがただ補鼠器の中央に針線で縛った鳴子の笛が鳴ったことは特記せねばならぬ。右の補鼠器の周囲は日本紙で貼りつめ、封印を施してあるので、人間業では到底その内の笛は鳴らない仕掛になっている。それが五六回猛烈に鳴ったのであるから人力以外のる働きの存在を推定せねばならない。この実験一つでも識者はおおいに考えねばなるまい。

 第二が卓子浮揚現象

であった。卓子の前面に光章二個を附けてあるのでその所在は暗中にありてもよく判る。卓子の重量は一貫九百五十匁である。龜井氏の卓子浮揚の最高レコードは六尺内外であるが、この場合の浮揚はむしろ不成績の部で、約二尺位に過ぎなかった。それでも前後数回にわたりて昇ったり降りたりした。

 第三が腕時計抜き取り現象

 であった。それは前に幾度も幾度も実験されたことで、いつもビジョウをかけたままスポリと腕から抜き取られるのであるが、今回もその通りで、抜きとられた時計は第二卓子上、洗面器の側に置かれてあった。

 ここで私は一時現象の中止を命じ、懐中電灯をつけて龜井氏の緊縛状態を検査せしめたが、何等異状なしの報告に接した。

 再び消灯すると共に現象が直ちに起った。刮目かつもくすべき現象はこれからであった即ち

 第四ゴム毬セルロイド玩具等の大飛躍

で、それ等にはいずれも夜光液を充分に施してあるので目覚むるばかり美しい。それ等が霊媒の身辺から二間余の距離にとび、列席者の頭上を掠めて猛烈に回転飛行又は跳躍運動を行うのであるから、詐術の疑問などは一度に吹き飛ばされてしまう。現代の日本国をはじめ、世界各国の民衆に是非一度は観せて置くべき心霊現象と思われる。全く目覚まし用にはあつらい向きのシロモノである。

 第五が赤光線下の洗面器浮揚現象

で、これは今回の実験の呼び物の一つである。御承知の通り物理的の心霊現象には暗黒が附きもので、其点そのてん疑惑を招き勝ちである。これを打破せんとするのが私どもの苦心の存するところであるが、今年に入りて初めてこの試みに成功した。赤光灯は写真の暗箱式のもので、スウィッチをもって点滅を行う装置である。その前回数寸の所に白瀬戸ひきの洗面器を据えつけた。水も少し入れてある。これは赤光に反映してその所在地が鮮明に判り易いからである。龜井氏の守護霊は玩具やゴム毬を飛ばした後で直ちにこの仕事に着手した。赤灯が点いて赤光線が放射されたその前回の洗面器はしばらくその光を浴びて静止して居たがやがて傾き加誠に一寸二寸と上昇し最後に七八寸ばかり極めて分明に浮き上った二三秒停止の後静かに卓上に下降した

 これで当夜の実験の大眼目は首尾よく済んだ。若し状況が許せば守護霊の物質化――即ち幽霊出現現象を行って欲しいと私も思い、又列席者の希望でもあったが、敲音ラップで問答の結果それは不可能ということが判った。で、私はおもむろに実験の終結を守護霊に迫った。数分間微弱なる鈴の運動等が行われた後、室内は全く鎮静に帰した。そこで私は守護霊の二回の敲音を合図にポケットの懐中電灯を取り出して点灯した。

 丁度その瞬間である。守護霊は昏睡中の龜井氏の口を使って、例の皺嗄しわがれた声で

『洗面器……洗面器の中……』

 私はすぐに眼を洗面器に移すと意外! 意外! いつの間にやら一株の万年青おもとが鉢のままで洗面器の水の中に引寄せられてあった。つまり予告なしで、

 第六の物品引寄の現象

が、決行されたのであった。先刻洗面器が上昇してから点灯までの時間は約二十分位で、右の引寄はこの間に行われたものに相違ない。これには私をはじめ、列席者一同アッと感歎の声を放たざるを得なかった。

 因みに右の万年青の鉢植が服部時計店の所有にかかるか否かは目下調査中である。早速写真も撮ることにしてある。万年青の葉の長は六七寸で、鉢は青磁、濡れた赤土が固くなって居た。

 其晩そのばんの実験で特記すべきは、いろいろの現象が後から後から矢継ぎ早に起り、従って全体の時間が一時間半に過ぎなかったことである。概して成績の良い時には時間が少なく、不良な時ほどダラダラと永びく傾向がある。困ったものだがドーにも仕方がない。

 因みに当夜の列席者は二十余人で大阪の名士の多くを混え、福来博士などもその一人であった。(一月二十九日朝四日市行の汽車中で)


赤光線下の物品浮揚と目覚ましき物品引寄

底本;「心霊と人生」 第7巻3号

発行日; 1930(昭和5)年3月1日

発行所: 心霊科学研究会

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ HTML化に際して、底本中の傍点表記を下線表記に、白丸傍点表記を太字表記にそれぞれ置き換えました。

入力: いさお


雑誌「心霊と人生」より

   

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