‘2010/10/30’ カテゴリーのアーカイブ

8 法廷に於ける霊水湧出

2010/10/30

 話題が裁判問題に入るに及び、長南氏の談話にはいよいよ熱度が加わりました。同氏は語りつづけました。――

『裁判問題は、右の様な次第で大変手間どれましたが、其間に大阪控訴院に於ける控訴上告は破棄されまして、神戸地方裁判所で再審理を受ける事になりました。当時この事件に関係した判検事をはじめ、弁護士に至るまで今でも殆んど全部行方が判って居るのは、資料の権威を加える点につき甚だ好都合であります。此事件の裁判長は中野という判事で、私が現在どうなったか存じませんのはこの方だけです。陪席判事は岸本さんで現在は大阪で弁護士を開業して居られます。又検事の高木さんも矢張り只今老松町で弁護士、それから私の方で依頼した弁護士が、御承知の横山鑛太郎氏……現在では東京控訴院の検事部長を勤めて居られます。お閑がお在りなら一応此等の関係者に就きて当時の実状の調査をなされたら又何等かの新材料が手に入らぬものでもなく、又私の談話の裏書ともなる訳です。是非機会を見てそうなさる事を希望致します。

『さていよいよ十二月十二日を以て神戸地方裁判所に於ける公判の開廷という段取に進みました。爰で法廷の模様を一々述べる必要は厶いますまい。裁判長、陪席判事、立会の検事をはじめ弁護士、被告等すべて型の如く座席を占め、型の如き訊問が一と通り済みました。やがて中野裁判長から、被告はこの法廷に於ても霊水を出すことが能るかとの質問でした。姉は平気で、それはお易いことで厶いますが、ただ一寸身を隠す場所を貸して戴きたいと答えました。そこでいよいよ適当の場所に於て実験執行ということになり、一旦公判廷は閉じられました。

『裁判官達は其実験の場所につきて暫時会議を遂げた上で、結局弁護士詰所をそれに宛てる事にきめました。御承知かも知りませんが、当時神戸の裁判所は新築中で、弁護士詰所の如きは、やっと電話室が出来上ったばかりで、電話の取付はまだしてありませんでした。この電話室を塵一つ留めぬまでに掃拭し、姉を其中に入れることになったのであります。

『いよいよ実験となると、姉は裸体にされ、着衣その他につきて厳重なる検査を施行されたことは申す迄もありません。そして裁判長自から封印せる二合入りの空壜一本を手づから姉に渡し、係りの判検事は申す迄もなく、弁護士やら官吏やら多数環視の裡に、姉は静かに右の電話室に入って行ったのであります。

『姉が電話室に入ると同時に、私は携帯の時計を取り出して時間を計りました。すると正に二分時を経過せる時に、電話室の内部からコツコツと合図が聞えます。そして扉が開かれて立ち出でたる姉の片手には、茶褐色の水を以て充たされたる二合壜が元の通り密栓封印のままで、携えられて居たのであります。――

『公判廷は再び開廷せられ、茶褐色の水の充ちたる二合壜は判官の机上に安置されました。裁判長と被告との間には次ぎの如き奇問奇答が交換されました。

問 「この水は何病に利くのか」

答 「万病に利きます。特に何病に利く薬と神様にお願いした訳で厶りませぬから……」

問 「この薬を貰って置いて宜しいか」

答 「宜しゅう厶ります」

 此の如くにして訊問は終り、即刻無罪の宣告が下りました。』


浅野和三郎著

底本:「心霊文庫第3篇 続幽魂問答(付録 長南年惠物語)」

心霊科学研究会

1930(昭和5)年06月20日発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力: いさお


2010年10月
« 9月   11月 »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。