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2 湯冷しを飲みて吐血

2010/10/24

 やがて長南氏は再び物語のつづきを始めました。――

『兎に角姉の身につきては私の腑に落ち兼ねる事柄ばかりですから、私は生家に滞在した数日間有らん限りの注意を払い、又能う限りの実験を試みたのであります。ところが事実は却って母の物語以上、又私の想像以上であったから驚きました。

『私には姉が煮焚きしたものを食べられないという事が第一に信じ難い事柄でした。――食べられないのではあるまい。自分の気侭で、そんな事を言って居るのだろう。――私はそれ位に考え、真先きにその真偽を確めて見ようと決心しました。

『試験は極めて簡単でした。私は素知らぬ風をして湯冷しを造って、それを生水だと称して、姉に侑めたのであります。無邪気な姉はそんな計略のあることは夢にも知らず、何気なくそれを飲みましたが間もなく非常な苦痛で、飲んだ湯冷しを吐いたばかりでなく、その後で血を吐いたのです!

『それがただ一回の吐血なら、偶然という事もありますが、試験の都度必らずそうなのですからさすがに頑固な私もこの事実丈は承認せざるを得なくなりました。いかに自己の経験や知識を標準としてそんな事実は到底有り得べき筈がないと結論して見ても、事実は飽くまでも事実で、理窟を以てそれを取消す訳には参りませんでした。

『尚お私が帰宅したその当夜から、母の述べた家鳴り震動、その他数多の怪異が起ったことも事実でした。――が、私はそれ等の事柄は余り詳しくお話し致し度くはありません。そんな話は在来の有り触れた妖怪譚などにもよくあることで、よしそれが事実であるにしても、別に特筆大書する程の貴重な材料とも考えられませぬ。

『が、これまでの所は私の姉の身に起った神秘的事蹟のホンの発端で、もっともっと不思議な事が其後に於て追々発展して行ったのであります。惜しい事には姉の事蹟に対する私の知識が、ともすれば間歇的、断片的になることがありますが、しかしそれは姉の生涯の前半期と終末期とに関する丈で、幸いにも私は姉の奇蹟的生活の花ともいうべき時代を一緒に大阪で送りましたから、その点は誠に好都合でした。』


浅野和三郎著

底本:「心霊文庫第3篇 続幽魂問答(付録 長南年惠物語)」

心霊科学研究会

1930(昭和5)年06月20日発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。