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65、小桜神社の由来

2010/08/19

 ツイうっかりお約束をして了いましたので、これから私が小桜神社として祀られた次第を物語らなければならぬ段取になりましたが、実は私としてこんな心苦しいことはないのでございます。御覧のとおり私などは別にこれと申してすぐれた器量の女性でもなく、又修行と言ったところで、多寡が知れて居るのでございます。こんなものがお宮に祀られるというのはたしかに分に過ぎたことで、私自身もそれはよく承知しているのでございます。ただそれが事実である以上、拠なく申上げるようなものの、決して決して私が良い気になって居る訳でも何でもないことを、くれぐれもお含みになって戴きとう存じます。私にとりてこんなしにくい話はめったにないのでございますから……。

 だんだん事の次第をしらべますると、話はずっと遠い昔、私がまだ現世に生きて居た時代に遡るのでございます。前にもお話ししたとおり、良人の討死後私は所中そのお墓詣りを致しました。何にしろお墓の前へ行って瞑目すれば、必らず良人のありし日の面影がありありと眼に映るのでございますから、当時の私にとりてそれが何よりの心の慰めで、よほどの雨風でもない限り、めったに墓参を怠るようなことはないのでした。『今日も又お目にかかって来ようかしら……。』私としてはただそれ位のあっさりした心持で出掛けたまでのことでございました。この墓詣りは私が病の床につくまでざっと一年あまりもつづいたでございましょうか……。

 ところが意外にもこの墓参が大へんに里人の感激の種子となったのでございます。『小櫻姫は本当に烈女の亀鑑だ。まだうら若い身でありながら再縁しようなどという心は微塵もなく、どこまでも三浦の殿様に操を立て通すとは見上げたものである。』そんな事を言いまして、途中で私とすれ違う時などは、土地の男も女も皆泪ぐんで、いつまでもいつまでも私の後姿を見送るのでございました。

 里人からそんなにまで慕ってもらいました私が、やがて病の為めに殪れましたものでございますから、その為めに一層人気が出たとでも申しましょうか、いつしか私のことを世にも類なき烈婦……気性も武芸も人並すぐれた女丈夫ででもあるように囃し立てたらしいのでございます。その事は後で指導役のお爺さんから伺って自分ながらびっくりして了いました。私は決してそんなに偉い女性ではございませぬ。私はただ自分の気が済むように、一と筋に女子として当り前の途を踏んだまでのことなのでございまして……。

 尤も、最初は別に私をお宮に祀るまでの話が出た訳ではなく、時々思い出しては、野良への往来に私の墓に香花を手向ける位のことだったそうでございますが、その後不図とした事が動機となり、とうとう神社というところまで話が進んだのでございました、まことに人の身の上というものは何が何やらさっぱり見当がとれませぬ。生きて居る時にはさんざん悪口を言われたものが、死んでから口を極めて讃められたり、又その反対に、生前栄華の夢を見たものが、墓場に入ってからひどい辱しめを受けたりします。そしてそれが少しも御本人には関係のない事柄なのですから、考えて見ればまことに不思議な話で、煎じつめれば、これは矢張り何やら人間以上の奇びな力が人知れず奥の方で働いているのではないでしょうか。少くとも私の場合にはそうらしく感じられてならないのでございます……。


底本:「霊界通信 小桜姫物語」 潮文社

1998(平成10)年07月31日第九刷発行
底本の親本は心霊科学研究会出版部
1937(昭和12)年02月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力者: 泉美

かな修正: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。