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54、雷雨問答

2010/08/08

 それから間もなく、私は随分と激しい雷雨の実況を見せて戴いたのでございますが、外観からいえばそれは現世で目撃した雷雨の光景とさしたる相違もないのでした。先ず遙か向うの深山でゴロゴロという音がして、同時に眼も眩むばかりの稲妻が光る。その中、空が真暗くなって、あたりの山々が篠突くような猛雨の為めに白く包まれる……ただそれきりのことに過ぎませぬ。

 が、内容からいえば、それは現世ではとても思いもよらぬような、不思議な、そして物凄い光景なのでございました。

『雨雲の中をよく見るがよい。眼を離してはならぬ。』

 お爺さんからそう注意されるまでもなく、私はもう先刻から一心不乱に深い統一に入って、黒雲の中を睨みつめて居たのですが、たちまち一体の龍神の雄姿がそこに鮮かに見出されました。私は思わず叫びました。――

『あれあれ薄い鼠色の男の龍神さんが、大きな口を開けて、二本の角を振り立てて、雲の中をひどい勢で駆けて行かれる……。』

『それが先刻爰に見えた、あの若者なのじゃ。』

『あれ、向うの峰を掠めて、白い、大きな龍神さんが、眼にもとまらぬ迅さで横に飛んで行かれる……あの凄い眼の色……。』

『それが雷の龍神の一人じゃ。力量はこの方が一段も二段も上じゃ……。』

『あれ、雨の龍神さんが、こちらを向いて、何やら相図をして向うの方に飛んで行かれます……。』

『それは、そろそろ雨を切上げる相図をしているのじゃ。もう間もなく雨も雷も止むであろう……。』

 果して間もなく雷雨は、拭うが如く止み、山の上は晴れた、穏かな最初の景色に戻りました。私は夢から覚めたような気分で、しばらくは言葉もきけませんでした。

 ややありて私は瀑布の龍神さんに向い、今日見せられた事柄に就いていろいろお訊ねしましたが、いかに訊ねても訊ねても矢張り私の器だけのことしか判る筈もなく、従ってあまり御参考にもならぬかと存じますが、兎も角その時の問答の一部をお伝えして置きます。――

問 『雨を降らすのと、雷を起すのとでは、いつもその受持が異うのでございますか?』

答 『それは無論そうじゃ。俺達の世界にもそれぞれ受持がある……。』

問 『どのような手続きで、あんな雨や雷が起るのでございますか?』

答 『さあそれは甚だ甚だ六ヶしい……。一と口に言って了えば念力じゃが、むろんただそう言ったのみでは足らぬ。天地の間にはそこに動かすことのできぬ自然の法則があり、龍神でも、人間でも、その法則に背いては何事もできぬ。念力は無論大切で、念力なしには小雨一つ降らせることもできぬが、しかしその念力は、何は措いても自然の法則に協うことが肝要じゃ。先刻雨を降らせるにつきても、俺達が第一に神界のお許しを受けたのはそこじゃ。大きな仕事になればなるほど、ますます奥が深くなる。俺達は言わば神と人との中間の一つの活きた道具じゃ……。』

問 『先刻の雨と雷とは、何れもお一人づつで行られたお仕事でございましたか?』

答 『雨の方はただ一人の龍神の仕事じゃった。汝一人の為めに降らせたまでの俄雨であるから、従ってその仕掛もごく小さい……。が、雷の方はあれで二人がかりじゃ。こればかりは、いかなる場合にも二人は要る。一方は火龍、他方は水龍――つまり陽と陰との別な働きが加わるから、そこに初めてあの雷鳴だの、稲妻だのが起るので、雨に比べると、この仕事の方が遙かに手数がかかるのじゃ……。』


底本:「霊界通信 小桜姫物語」 潮文社

1998(平成10)年07月31日第九刷発行
底本の親本は心霊科学研究会出版部
1937(昭和12)年02月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力者: 泉美

かな修正: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。