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45、龍神の修行場

2010/07/30

 天狗界の探検に引きつづいて、私は指導役のお爺さんから、龍神の修行場の探検を命ぜられました。――

『いつかは龍宮界への道すがら、ちょっと龍神の修行場をのぞかしたこともあるが、あれではあまりにあっけなかった。もう一度汝を彼所へ連れて行くとしょう。あの修行場には一人の老練な監督者が居るから、不審の点は何なりとそれに訊ねるがよい。』

『そのお方も矢張り龍神さんでございますか……。』

『無論そうじゃ。が、俺と同様、人間と面会する時は人間の姿に化けて居る……。』

 一度行ったことのある境地でございますから、道中の見物は一切ヌキにして、私達は一と思いに、あのものすごい龍神の湖水の辺へ出て了いました。こちらの世界では遅く歩くも、速く歩くも、すべて自分の勝手で、そこはまことに便利でございます。

 と見ると、水辺の、とある巨大な巌の上には六十前後と見ゆる、一人の老人が、佇んで私達の来るのを待って居りました。服装その他大体は私の案内役のお爺さんに似たり寄ったり、ただいくらか肉附きがよく、年輩も二つ三つ若いように見えました。それが監督の龍神さんであることはここに断るまでもありますまい。

 一応簡単な挨拶を済ませてから、私は早速右の監督のお爺さんに話かけました。――

『修行場の模様はいつか拝見させて戴きましたので、今日はむしろ龍神さんの生活につきて、いろいろ腑に落ちかねる点を伺いたいのでございますが……。』

『何なりと訊ねて貰います。研究の為めとあれば、俺の方でもそのつもりで、差支なき限り何も彼も打ち明けて話すことにしましょう。龍神の世界は人間界とは大分に勝手が異うから、訊く方でも成るべくまごつかぬように……。』

 あっさりとさばけた態度で、そう言われましたので、私の方でもすっかり安心して、思い浮ぶまま無遠慮にいろいろな事をおききしました、その時の問答の全部をここでお伝えする訳にもまいり兼ねますが、ただあなた方の御参考になりそうな個所は、成るべく洩なく拾い出しましょう。

問 『龍神の子供は現在でも矢張り生れているのでございますか?』

答 『人間の世界で子供が生れるように、こちらでもズンズン殖えます……。』

問 『生れたての若い龍神の躯はどんな躯でございますか?』

答 『別に変った躯でもないが、しかし人間からいえばつまり一の幽体、もちろん肉眼で見ることはできぬ。大さは普通三尺もあろうか……しかし伸縮は自由自在であるから、言わば大さが有って無いようなものじゃ……。』

問 『蛇とは何う異いますか?』

答 『蛇はもともと地上の下級動物、形も、性質も、資格も龍神とは全く別物じゃ。蛇がいかに功労経たところで龍神になれる訳のものでない……。』

問 『龍神さんは矢張り人間の御先祖なのでございますか?』

答 『左様、先祖といえば先祖であるが、寧ろ人間の遠祖、人間の創造者と言ったがよいであろう。つまり龍神がそのまま人間に変化したのではない。龍神がその分霊を地上に降して、ここに人類という、一つの新らしい生物を造り出したのじゃ。』

問 『只今でも龍神さんはそう言ったお仕事をなさいますか?』

答 『イヤこれは最初人類を創造り出す時の、ごく遠い大古の神業であって、今日では最早やその必要はなくなった。そなたも知るとおり人間の男女は立派に人間の子を生んで居るであろうが……。』

 そう言ってお爺さんはにっこりともせず、正面から私に鋭い一瞥を与えられました。


底本:「霊界通信 小桜姫物語」 潮文社

1998(平成10)年07月31日第九刷発行
底本の親本は心霊科学研究会出版部
1937(昭和12)年02月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力者: 泉美

かな修正: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。