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3〇、永遠の愛

2010/07/15

 思い切って私はここに懺悔しますが、四辺に神さん達の眼が見張っていないと感付いた時に、私の心が急にむらむらとあらぬ方向へ引きづられて行ったことは事実でございます。

『久しぶりでめぐり合った夫婦の仲だもの、せめて手の先尖位は触れても見たい……。』

 私の胸はそうした考えで、一ぱいに張りつめられて了いました。

 物堅い良人の方でも、うわべはしきりに耐え耐えて居りながら、頭脳の内部は矢張りありし昔の幻影で充ち充ちているのがよく判るのでした。

 とうとう堪えきれなくなって、私はいつしか切株から離れ、あたかも磁石に引かれる鉄片のように、一歩良人の方へと近づいたのでございます……。

 が、その瞬間、私は急に立ち止って了いました。それは今まではっきりと眼に映っていた良人の姿が、急にスーツと消えかかったのに驚かされたからでございます。

『この眼がどうかしたのかしら……。』

 そう思って、一歩退いて見直しますと、良人は矢張り元の通りはっきりした姿で、切株に腰かけて居るのです。

 が、再び一歩前へ進むと、又もやすぐに朦朧と消えかかる……。

 二度、三度、五度、幾度くりかえしても同じことなのです。

 いよいよ駄目と悟った時に、私はわれを忘れてその場に泣き伏して了いました……。


『何うじゃ少しは悟れたであろうが……。』

 私の肩に手をかけて、そう言われる者があるので、びっくりして涙の顔をあげて振り返って見ますと、いつの間に戻られたやら、それは私の指導役のお爺さんなのでした。私はその時穴があったら入りたいように感じました。

『最初から申しきかせた通り、一度逢った位ですぐ後戻りする修行はまだ本物とは言われない。』とお爺さんは私達夫婦に向って諄々と説ききかせて下さるのでした。『汝達には、姿はあれど、しかしそれは元の肉体とはまるっきり異ったものじゃ。強いて手と手を触れて見たところで、何やらかさかさとした、丁度張子細工のような感じがするばかり、そこに現世で味わったような甘味も面白味もあったものではない。尚お汝は先刻、良人の後について行って、昔ながらの夫婦生活でも営みたいように思ったであろうが……イヤ隠しても駄目じゃ、神の眼はどんなことでも見抜いているから……しかしそんな考えは早くすてねばならぬ。もともと二人の住むべき境涯が異っているのであるから、無理にそうした真似をしても、それは丁度鳥と魚とが一緒に住おうとするようなもので、ただお互に苦しみを増すばかりじゃ。そち達は矢張り離れて住むに限る。――が、俺が斯う申すのは、決して夫婦間の清い愛情までも棄てよというのではないから、その点は取り違いをせぬように……。陰陽の結びは宇宙万有の切っても切れぬ貴い御法則、いかに高い神々とてもこの約束からは免れない。ただその愛情はどこまでも浄められて行かねばならぬ。現世の夫婦なら愛と欲との二筋で結ばれるのも止むを得ぬが、一たん肉体を離れた上は、すっかり欲からは離れて了わねばならぬ。そち達は今正にその修行の真最中、少し位のことは大目に見逃がしてもやるが、あまりにそれに走ったが最後、結局幽界の落伍者として、亡者扱いを受け、幾百年、幾千年の逆戻りをせねばならぬ。俺達が受持っている以上、そち達に断じてそんな見苦しい真似わさせられぬ。これからそち達はどこまでも愛し合ってくれ。が、そち達はどこまでも浄い関係をつづけてくれ……。』


 それから少時の後、私達はまるで生れ変ったような、世にもうれしい、朗かな気分になって、右と左とに袂を別ったことでございました。

 ついでながら、私と私の生前の良人との関係は今も尚お依然として続いて居り、しかもそれはこのまま永遠に残るのではないかと思われます。が、むろんそれが互に許し合った魂と魂との浄き関係であることは、改めて申上げるまでもないと存じます。


底本:「霊界通信 小桜姫物語」 潮文社

1998(平成10)年07月31日第九刷発行
底本の親本は心霊科学研究会出版部
1937(昭和12)年02月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力者: 泉美

かな修正: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。