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25、龍宮雑話

2010/07/10

 一と通り私の身上噺が済んだ時に、今度は私の方から玉依姫様にいろいろの事をお訊ねしました。何しろ龍宮界の初上り、何一つ弁えてもいない不束者のことでございますから、随分つまらぬ事も申上げ、あちらではさぞ笑止に思召されたことでございましたろう。何をお訊ねしたか、今ではもう大分忘れて了いましたが、標本のつもりで一つ二つ想い出して見ることに致しましょう。

 真先きに私がお訊ねしたのは浦島太郎の昔噺のことでございました。

『人間の世界には、浦島太郎という人が龍宮へ行って乙姫さまのお婿様になったという名高いお伽噺がございますが、あれは実際あった事柄なのでございましょうか……。』

 すると玉依姫様はほほとお笑い遊ばしながら、斯う訓えてくださいました。

『あの昔噺が事実そのままでないことは申すまでもなけれど、さりとて全く跡方もないというのではありませぬ。つまり天津日継の皇子彦火々出見命様が、姉君の御婿君にならせられた事実を現世の人達が漏れきいて、あんな不思議な浦島太郎のお伽噺に作り上げたのでございましょう。最後に出て来る玉手箱の話、あれも事実ではありませぬ。別にこの龍宮に開ければ紫の煙が立ちのぼる、玉手箱と申すようなものはありませぬ。あなたもよく知るとおり、神の世界はいつまで経っても、露かわりのない永遠の世界、彦火々出見命様と豊玉姫様は、今も昔と同じく立派な御夫婦の御間柄でございます。ただ命様には天津日継の大切な御用がおありになるので、めったに御夫婦揃ってこの龍宮界にお寛ぎ遊ばすことはありませぬ。現に只今も命様には何かの御用を帯びて御出ましになられ、乙姫様は、ひとりさびしくお不在を預かって居られます。そんなところが、あのお伽噺のつらい夫婦の別離という趣向になったのでございましょう……。』

 そう言って玉依姫には心持ちお顔を赧く染められました。

 それから私は斯んな事もお訊きしました。――

『斯うして拝見致しますと龍宮は、いかにもきれいで、のんきらしく結構に思われますが、矢張り神様にもいろいろつらい御苦労がおありなさるのでございましょう?』

『よい所へお気がついてくれました。』と玉依姫様は大そうお歓びになってくださいました。

『寛いで他にお逢いする時には、斯んな奇麗な所に住んで、斯んな奇麗な姿を見せて居れど、わたくし達とていつも斯うしてのみはいないのです。人間の修行もなかなか辛くはあろうが、龍神の修行とて、それにまさるとも劣るものではありませぬ。現世には現世の執着があり、霊界には霊界の苦労があります。わたくしなどは今が修行の真最中、寸時もうかうかと遊んでは居りませぬ。あなたは今斯うしている私の姿を見て、ただ一人のやさしい女性と思うであろうが、実はこれは人間のお客様を迎える時の特別の姿、いつか機会があったら、私の本当の姿をお見せすることもありましょう。兎に角私達の世界にはなかなか人間に知られない、大きな苦労があることをよく覚えていてもらいます。それがだんだん判ってくれば、現世の人間もあまり我侭を申さぬようになりましょう……。』

 こんな真面目なお話をなさる時には、玉依姫様のあの美しいお顔がきりりと引きしまって、まともに拝むことができないほど神々しく見えるのでした。

 私がその日玉依姫様から伺ったことはまだまだ沢山ございますがございますが、それはいつか別の機会にお話しすることにして、ただ爰で是非附け加えて置きたいことが一つございます。それは玉依姫の霊統を受けた多くの女性の中に弟橘姫が居られることでございます。『あの人はわたくしの分霊を受けて生まれたものであるが、あれが一ばん名高くなって居ります……。』そう言われた時には大そうお得意の御模様が見えていました。

 一と通りおききしたいことをおききしてから、お暇乞いをいたしますと『又是非何うぞ近い中に……。』という有難いお言葉を賜わりました。私は心から朗かな気分になって、再び例の小娘に導かれて玄関に立ち出で、そこからはただ一気に途中を通過して、無事に自分の山の修行場に戻りました。


底本:「霊界通信 小桜姫物語」 潮文社

1998(平成10)年07月31日第九刷発行
底本の親本は心霊科学研究会出版部
1937(昭和12)年02月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力者: 泉美

かな修正: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。