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16、守護霊との問答

2010/07/01

 岩屋の修行中に私が自分の守護霊と初めて逢ったお話を申上げたばかりに、ツイ斯んな長談議を致して了いました。斯んな拙い話が幾分たりともあなた方の御参考になればこの上もなき僥倖でございます。

 序に、その際私と私の守護霊との間に行われた問答の一部を一応お話し致して置きましょう。格別面白くもございませぬが、私にとりましてはこれでも忘れ難い想い出の種子なのでございます。

 『あなたが私の守護霊であると仰っしゃるなら、何故もっと早くお出ましにならなかったのでございますか? 今迄私はお爺様ばかりを杖とも柱とも依りにして、心細い日を送って居りましたが、若しもあなたのような優さしい御方が最初からお世話をして下さったら、どんなにか心強いことであったでございましたろう……。』

 『それは一応尤もなる怨言であれど、神界には神界の掟というものがあるのです。あのお爺様は昔から産土神のお神使として、新たに帰幽した者を取扱うことにかけてはこの上もなくお上手で、とても私などの足元にも及ぶことではありませぬ。私などは修行も未熟、それに人情味と言ったようなものが、まだまだ大へんに強過ぎて、思い切ってきびしい躾を施す勇気のないのが何よりの欠点なのです。あなたの帰幽当時の、あの烈しい狂乱と執着……とても私などの手に負えたものではありませぬ。うっかりしたら、お守役の私までが、あの昂奮の渦の中に引き込まれて、徒らに泣いたり、怨んだりすることになったかも知れませぬ。かたがた私としては態とさし控えて蔭から見守って居る丈にとどめました。結局そうした方があなたの身の為めになったのです……。』

 『では今までただお姿を見せないという丈で、あなた様は私の狂乱の状態を蔭からすっかり御覧になっては居られましたので……。』

 『それはもちろんのことでございます。あなたの一身上の事柄は、現世に居った時のことも、又こちらの世界に移ってからの事も、一切知り抜いて居ります。それが守護霊というものの役目で、あなたの生活は同時に又大体私の生活でもあったのです。私の修行が未熟なばかりに、随分あなたにも苦労をさせました……。』

 『まあ勿体ないお言葉、そんなに仰せられますと私は穴へも入りたい思いがいたします……。それにしてもあなた様は何と仰っしゃる御方で、そしていつ頃の時代に現世にお生れ遊されましたか……。』

 『改めて名告るほどのものではないのですが、斯うした深い因縁の絆で結ばれている上からは、一と通り自分の素性を申上げて置くことに致しましょう。私はもと京の生れ、父は粟屋左兵衛と申して禁裡に仕えたものでございます。私の名は佐和子、二十五歳で現世を去りました。私の地上に居った頃は朝廷が南と北との二つに岐れ、一方には新田、楠木などが控え、他方には足利その他東国の武士どもが附き随い、殆んど連日戦闘のない日とてもない有様でした……。私の父は旗色の悪い南朝方のもので、従って私どもは生前に随分数々の苦労辛酸を嘗めました……。』

 『まあそれはお気の毒なお身の上……私の身に引きくらべて、心からお察し致します……。それにしても二十五歳で歿なられたとの事でございますが、それまでずっとお独身で……。』

 『独身で居りましたが、それには深い理由があるのです……。実は……今更物語るのもつらいのですが、私には幼い時から許嫁の人がありました。そして近い内に黄道吉日を択んで、婚礼の式を挙げようとしていた際に、不図起りましたのがあの戦乱、間もなく良人となるべき人は戦場の露と消え、私の若き日の楽しい夢は無残にも一朝にして吹き散らされて了いました……。それからの私はただ一個の魂の脱けた生きた骸……丁度蝕まれた花の蕾のしぼむように、次第に元気を失って、二十五の春に、さびしくポタリと地面に落ちて了ったのです。あなたの生涯も随分つらい一生ではありましたが、それでも私のにくらぶれば、まだ遥かに花も実もあって、どれ丈幸福だったか知れませぬ。上を見れば限りもないが、下を見ればまだ際限もないのです。何事も皆深い深い因縁の結果とあきらめて、お互に無益の愚痴などはこぼさぬことに致しましょう。お爺様の御指導のお蔭で近頃のあなたはよほど立派にはなりましたが、まだまだあきらめが足りないように思います。これからは私もちょいちょい見まわりにまいり、ともども向上を図りましょう……。』

 その日の問答は大体斯んなところで終りましたが、斯うした一人のやさしい指導者が見つかったことは、私にとりて、どれ丈の心強さであったか知れませぬ。その後私の守護霊は約束のとおり、しばしば私の許に訪れて、いろいろと有難い援助を与えてくださいました。私は心から私のやさしい守護霊に感謝して居るものでございます。


底本:「霊界通信 小桜姫物語」 潮文社

1998(平成10)年07月31日第九刷発行
底本の親本は心霊科学研究会出版部
1937(昭和12)年02月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ また、HTML化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に置き換えました。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


入力者: 泉美

かな修正: いさお


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。