46 妖精とは何か?

 一九一七年十二月三十一日夜から一九一八年一月一日へかけて、ワアド氏が幽界訪問をした時、先ず『新年御めでとう!』と挨拶しますと、皆なは一寸可笑しそうに笑いましたが、やがて叔父さんが云いました。――

『新年という考えが馬鹿馬鹿しいので、可笑しくもなったが、よく考えて見れば、この月並の文句にもなかなか意味がある。その真意は「今年はあなたの運命が従来よりも幸福になる様に!」というのじゃ。……一寸うまい文句ではないか。』

 レックスは早速例の如く話に取掛りました。――

 兄さん、新年の今日から一つ新しい問題に移りましょうか。僕は此の前御約束した妖精国の話を始めたいと思います。――

 妖精国の探険をする前まで、僕は妖精というものは、兄さんも御存知の自然霊の一種で、小供達の観念から創造された、形体を持った幽質に過ぎぬものだと考えていましたが、研究して見ると、案に相違! そうした自然霊とは全く異った独立の生物である事が解りました。然し妖精というものの存在を考える人は殆んど無いといってもよい有様の今日故、僕は先ず調査の結果から得た、彼等に関する概念について御話したいと思います。

 僕の考えでは、妖精というものは創造の過程にある霊魂ではないかと思うのですが……。即ち未だ肉体に宿って、地上生活をした事のない霊的実在とでもいいますか。此幽界から離れる時彼等は人類、獣類、植物等の物質中に入り、地上生活をするのではないかと考えます。ですから彼等の間には種々の種類がありますが、大体は以上挙げた三種の生物に似通った三つの型に分ける事が出来るので、これから試みる僕の体験談の中にも実例が多く出て来ますから、今は詳しい説明をしません。

 彼等の性格はわれわれ人間とは非常に違ってはいますが、其処に又ある類似の点が無くもないのです。一般に人間に比し不真面目であり、無責任は当然といった状態で、悪心は無いが、概して悪戯心に富んでいます。然し中には人間に対して敵慨心を持ち、害を加え様と企む面白くない代物もありますが、又一方には人間に向って友情を持ち、同情深い心で我々を援けようとするものもあるという工合。何処か人類に似た教養を持つものがあると思うと、全く訳の分らぬ下等な奴もあり、実に千差万別ですネ。

 とにかく真面目な態度を持続する事の出来ない生物故、通則として集中力を欠いています。ですから時々集団を形成する事があっても、直ちに本来の目的を忘れて、解散するとか、新しい出来心に擒われて他の方面に走るとかいった状態です。

 妖精には我々人間と同じく幽界から霊界へ行く者もありますが、其時彼等の幽体は消滅します。現界に赴く者は幽体のまま其処に出て、物質の包被内に入って後、其妖精の幽体は地上の新生活に相応しい変化をする様です。

 妖精国から一度地上へ生れ出でた妖精は、現界生活を終った時に妖精国へ戻らず、即ち我々と同じ此幽界の六層へ戻って来るのです。ですから彼等の地上生活は花と生れても、人と変じても、我々人間の生活とは離す事の出来ないもの、即ち人類の歴史の中に彼等妖精の生涯が織り込まれてあるものともいえましょう。

 それでは霊界へ志す妖精連はどうなるか? これは今の処僕には未解決です。いずれ将来解る事と思います。

 一寸考えて置きたい事は、妖精が現世へ出て、物質生活を始めると、勢いある程度までその進歩が退歩した体になります。が、これは恐らく外見丈の事で、実際は退歩しては居らぬのかとも思われます。異なった生涯を送る間に彼等は種々の新しい知識を得、性格上の欠点が補われ、それにより時節が来れば、一時は隠蔽された其才能が一段と高い進歩を遂げ得るのではないでしょうか。然しとにかく花の妖精が地上の花の牢獄に入れられて自我を失い、運動の自由を束縛され、口も利けなくなる等というのはどうも退歩としか考えられませんね……。これからの話を聴かれると、今まで僕のいった事がよく解ると思います。さァそれでは、妖精国の探検譚に移りましょう!


底本:「幽界行脚(A Subaltern in Spirit Land)」 嵩山房

発行: 1931(昭和6)年1月15日発行

J.S.M.ワード(John Sebastian Marlowe Ward)著

浅野和三郎・粕川章子 共

※ 訳者の一人、粕川章子氏の翻訳家著作商用権は2018年まで有効ですが、当サイトは粕川章子氏の御遺族の同意を得て公開しております。なお、本文の転載、商用利用などは御遺族の了承が必要です。

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。