27 守護の天使との邂逅 (下)

 吾輩がつづいて訊ねた。──

『そんな悪るい事をするのは真の悪魔なのですか、それとも普通の人間の霊魂なのですか?』

『それは普通の人間の霊魂なのじゃ。彼等は地上の悪漢同様自分達の仲間が彼等をはなれて正義の途に就くことを嫌うのじゃ。汝の今述べたような真の悪魔などというものは、地獄の最下層以外にはめったに居るものではない。地獄の上層に居るのは先ず大てい人間の霊魂であると思えば間違はない。』

『それなら自殺した者は何所に居るので厶いますか?』

『そんなものは大てい地獄の第三部、憎悪の境涯に行って居るが、たまに第四部に居るのがあるかも知れん。又幽界に居る時分に、其罪を償って了って地獄に墜ちずに済む者も少なくない。』

『それはそうと天使様、何やら光明がだんだん強く、行先が明るくなってまいりました。これは何うしたので厶います?』

『われわれはだんだん光明の地域に近づきつつあるのじゃ。のみならず休憩所の天使達が、われわれの近づくのを知って、われわれの為めに神に祈願をこめてくださるのじゃ。光というものは実は信念そのものである。故にわれわれの為めに祈りをささげてくれるものがあれば、その信念が光となってわれわれを導いてくださる。』

 次第次第に光は強さを加え、しまいにはまぶしくてしょうがなくなった。が、幸にも吾輩の人格にこびりついた最劣悪部はすでに燃えつくして了ったものと見え、この前よりも痛みを感ずることが少なかった。

 間もなくわれわれは休憩所に辿りつき、その入口の階段を登りつめて扉の前に立った。守護神は手さえかける模様もなくするすると扉を突き抜けて内部へ入ったが、しばしの後扉は内部から開かれ、吾輩も誰かに導かれて室内に歩み入った。

 言うまでもなく室内は極度に光線がつよいので、吾輩は一時すっかり盲目となって了ったが、それでも慣れるにつれて次第に勝手が判って来た。きけばここに駐在する天使達の任務というのは、一つには例の瀑布の附近の道路の破壊されるのを防ぎ、又一つには第五部の居住者がうっかり道に踏み迷い、第四部の方に落ちて来るのを監視する為めでもあった。

 ここで一言附け加えて置きたいのは、第五部の住民から排斥されたものが、時とすればその境界線にある絶壁から第四部に突き落されることである。第五部は大体に於て大変に格式を重んずる所で、規則違反者と見れば、決して容赦しない。この休憩所はそんな目に逢う連中をも能るだけ救うことにしているのである。

 尚おこの休憩所の前面にはインキ色の真黒な川が流れているが、その川にかかっている橋梁の警備も亦この休憩所の天使達の手で引受けているのであった。


底本:「死後の世界」 潮文社

J.S.M.ワード(John Sebastian Marlowe Ward)著

浅野和三郎訳

発行: 1995(平成7)年4月20日発行

底本の親本は嵩山房刊 1924(大正14)年12月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。