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25 霊界の病院 (上)

2010/02/10

 これは一九一四年五月四日の夜に起った霊夢の記事で、霊界に於ける精神病患者の取扱方に就きてくわしく書いてあります。心霊療法でもやろうという人達の参考になりそうなところを紹介することに致します。

 叔父。『私は先刻霊界の精神病院の一つを見学して来たのじゃが……。』

 ワアド。『病院で厶います? 私は又霊界では病苦に悩むものはないものと思って居りましたが……』

 叔父。『そりャ病苦に悩むというようなことはない。しかし精神の曇っている患者は霊界にもある。それが手術を要するのじゃ。つまり霊界の病人は悉く精神病患者の一種であると思えばよいのじゃ。

『病院に私を案内していろいろ説明してくれたのは、地上に居った時代に精神病学の大家として有名な某博士であった。

『病院は大へん美しい環境に置かれ、一歩その境内に入るといかにも平和な、のんびりした空気が漂うて居た。私がその事を同行の博士にのべると、博士は斯う言うのじゃ。──

「全くそうです。閑静な、人の心を和ぐる環境は一切の精神病患者を取扱うに欠くべからざる第一の要件です。」

『病院を囲める庭園にはいくつもいくつも広い芝生が造られてあり、所々に森が出来て居る。そして何所へ行ってもさらさらと流るる水の音がかすかに聞え、樹々の隙間からは何時も消えざる夕陽の光に染められた水面がちょいちょいのぞく。沢山の患者達は森をくぐったり、芝生をそぞろあるいたり、又湖面にボートを浮べて遊んだりして居る。

『しばらく美事な並木道を進んで行くと、やがて病院の建物が見え出して来た。それは文芸復興期式の建物で、正面には外橡が設けてあり、周囲は悉く天鳶絨のような芝生と花壇とで囲まれて居た。芝生には沢山の噴水やらさまざまの彫像やらがあった。

「不図気がつくと其所には一人の婦人が低い床几に腰をおろして竪琴を弾いていた。男女の患者達はこの周囲に寝椅子を持って来て、それに横わりながら熱心に耳を傾けるのであった。

『やがて私達は建物の内部に歩み入った。此所には学校のような設備があって、患者の大部分はそれに出席せねばならぬ規定になっている。尚お他に音楽堂がある、劇場がある、各宗派附属の礼拝堂がある、美術展覧会場がある。

『同行の博士はいろいろ私に説明してくれた。──

「この病院の重もなる目的の一つは能るだけ患者の精神を他に転換させることであります。患者の大部分は非常に利己的で、少くとも自分中心の連中ばかり、大てい信仰上の事柄や過度の悲みなどから狂気になっています。彼等の性質の陰欝な個所を駆除するのには健全な、人の心を和ぐる性質の娯楽が一番です。又手術としては主として暗示と催眠術と動物磁気とを用います。一つその実地を御覧なさい。」

『私達はそれから治療室のようなところへ入って行ったが、其所では二人の医師が一人の婦人患者に向って熱心に磁気療法を施して居た。患者は灰白色の衣服をつけ、腰部を一条の帯で括って居たがそれがこの病院の患者達の正規の服装なのである。患者が寝台の上に横わって居ると、医者の一人はその背後に立って片手を軽くその前額に当て、他の一人は患者の脚下に立って、これは手を触れずに居る。何方も凝乎と患者の顔を見つめて全精神をこめて居るらしく、私達が入って行っても側目さえふらなかった。

『気をつけて見ると二人の医師の躯からは微かな一種の光線が迸り出で、それが患者の頭部に集中しているのであった。

『そこを出て他の一室に入って見ると、ここでは煩悶の為めにしきりにのたうちまわってい一人の男患者を一人の女子がヴァイオリンで慰めつつあった。私は同行の博士に言った。──

「ドーも病院の方が私達の所よりも男女の交際が自由のようですナ。」

「実際はそうでもありません。男と女との間には殆んど交際などはありませんが、ただ治療上双方から助け合うことが必要なのです。殊に磁気療法を行るのには術者と被術者とが異性である方が良好なる効果を奏することが、実験上確かめられたのです。」


底本:「死後の世界」 潮文社

J.S.M.ワード(John Sebastian Marlowe Ward)著

浅野和三郎訳

発行: 1995(平成7)年4月20日発行

底本の親本は嵩山房刊 1924(大正14)年12月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。