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24 大学の組織

2010/02/09

 越えて四月二十七日の夜ワアド氏は再び叔父さんをその霊界の書斎に訪れました。

叔父。『今日は私自身の生活に就いてモ些しお前に説明して置きたいと思うが……。』

 ワアド。『是非お願いいたします。久しい間そちらの話を伺いませんでしたね。』

 叔父。『イヤ話は成るべく多数の人のをきいて置くに限る。たッた一人の千篇一律な物語を繰り返してきいたところで仕方がない。

『今日の私の話はこの大学の内部の組織に関することにしたいと思う。霊界では沢山の学科に分れて居って、いろいろの学会が設けられている。学問の種類は大体に於て四つに分れる。第一部は霊性の発達を研究する。第二部は不幸なものの救済法を研究する。第三部は地上生活中に興味を感じた問題に就きて新発見を成就しようとする。第四部は霊界で発見した新事実を人間界に伝えることの研究をやる。

『霊界にあるすべての学会のことを説明して居た日には時間がつぶれて仕方がないから、そんな話は後日に譲り、上に挙げた四種類の学科についてざッと説明し、その後ですべての代表として私の学校の実状でも述べるとしよう。

『霊性の発達の研究──これは私の現に行りつつあることであるから、一ばん後へして他の三種類の説明から始める。

『不幸なものの救済──これは地獄に堕ちて居る霊魂の救済法を研究するのと、地上の人類を正道に導くことの研究、との二種類に分れる。

『新発見の研究──その中に属するのは美術、建築、医療、音楽、その他に就きて科学的法則を究めんとするいろいろの学会である。私などは文芸復興期の建築学会に入っているが、これは文芸復興期の精神を尊重しながら之に新思想を取り入れんとする団体なのである。

『新事実を人間界に伝える研究──これは第三部の研究に伴う必然の仕事で、立派な発明が霊界で出来上ると、何人もそれを人間に普及してやりたくなる。尤も中にはすっかりこの仕事に懲りて了って一向冷淡な連中もないではない。霊界の方でも人間の指導に関しては随分苦い経験を嘗めさせられて居る。いかに優れた霊界の思想でも之を人間の心にうつして見ると、すっかり匂がぬけて了って、うっかりするとポンチ化することが少くない。更に呆れるのはその発明が有効に使われずに、まるきり飛んでもないことに悪用されることである。美術に関するものは大抵前者の運命を辿るものが多く、之に反して科学的機械的の発明は人間の方に印象を与え易いかわりに悪用される虞がある。

『斯んな次第で霊界にはその発明を絶対に人類に漏らすまいとする霊魂が居る。第三部の学会では斯んな規則を設けて居る。──「本会の会員はその発明を人類若くは第四部に属する学会に漏らすことを禁ず。」──随分八釜しい規則じゃろうがナ。

『しかしすべての学会が悉くそうではない。少しは其所に例外も設けてある。が、兎に角人類との交渉は第四部に属する学会の仕事に属し、諸種の医学会などというものは一ばん第四部に多い。』

 ワアド。『するとあなた方が人類に霊感を起させるには是非とも一の学会に入会する必要があるのですか? 個人としてそうすることが能きないのですか?』

 叔父。『能る事は能るが、しかし個人事業ではうまく行かない。小さくとも矢張り一の学会に属する方が便利じゃ。

『さてこれから少し私の入っている大学のことを話そう。幹部は学長が一人、学長の下に次長が一人、別に評議会があってそれを助ける。』

 ワアド。『大へんドーもフリィメーズン団の組織に似て居るようで厶いますナ。』

 叔父。『私はそんなことは知らないが、事によったらそうかも知れない。──さて学生であるが、それは三部に分れる。第一部が済むと第二部に上り、第二部が済むと第三部に進級する。すべて霊能の高下によりてきめられる。

『評議員会はこの第三部から選抜したもので組織される。更にいろいろの役員が、評議員の中から学長によりて選抜される。』

 ワアド。『ますますドーもフリィメーズン団そッくりで厶います。三部に分れるところなどは余程不思議です。』

 叔父。『そうかも知れない。フリィメーズンの組織なども恐らく霊界から出たものであろうが、これは極めて自然的な施設で、地上の大学でも第一年、二年、三年と分れ、別に研究生を置いてあるではないか。』

 ワアド。『あなた方にも矢張り試験のようなものが厶いますか?』

 叔父。『試験はありません。受持の教授がこれでよいと認めると上級へ昇してくれるのじゃ。進級するときはいくらか儀式のようなものがある。学級の区別はもちろん霊界の他の区別とは別問題じゃ。第三年級に昇ったとて半信仰のものは依然として半信仰の境に居る。』

 ワアド。『あなたは何学級に居られます?』

 叔父。『私かい? 私はまだ最下級じゃよ。しかしすぐ次ぎの級へ進むと思う。──それはそうとお前はモー帰らねばならない。』

 ワアド。『モー帰るのですか? 私はホンの短時間しか爰に居りませんが……。』

 叔父。『それでも帰るのじゃ。』

 ワアド氏は何やら旋風にでもまき込まれたように大空に吹きあげられ、四顧暗澹たる中をグルグル大きな円を描きつつ廻転したように覚えたのでしたが、その渦巻がだんだん小さくなるに従って次第に知覚を失って了いました。


底本:「死後の世界」 潮文社

J.S.M.ワード(John Sebastian Marlowe Ward)著

浅野和三郎訳

発行: 1995(平成7)年4月20日発行

底本の親本は嵩山房刊 1924(大正14)年12月発行

※ 青空文庫の「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字表記をあらためました。

※ 底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※ 底本で使われている「面区点2-12-11 (U+2231E)」]の文字は、辞書によっては異体字として扱われていない「廻」で置き換えています。

※ PHP化に際して、底本中の傍点表記を、下線表記に、白丸傍点表記を、斜字に置き換えました。また、底本中のルビは割愛しました。

※ ルビ付き版はこちらです。


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小桜姫物語について

「小桜姫物語」の再編集完了。

1、ルビなしのPHP化により携帯電話での表示が可能になり、キーワード検索が容易になりました。
2、HTML版は、従来誤字の修正点が未掲載だったものをバルーンヘルプにて誤字の修正点が解るようにし、底本の状態に近づけました。
3、CSSを変更して、HTMLのルビが、IE以外のブラウザでも表示出来るようにしました。

 今後、他のページも同様に再編集して行きます。

次は「新樹の通信」の再編集を行ないますが、9月1日から9月10日まで、私事多忙につき更新おやすみ。